想いと共に花と散る

 翌朝、屯所の一室に幹部が集められた。
 障子越しの陽はまだ弱く、室内には夜の名残のような冷えが漂っている。
 雪は先日の会議の際と同様に土方の隣に座し、背筋を伸ばしていた。
 小姓であるはずの雪がこの場に呼ばれるのは、これが二度目だ。それだけで、この件が軽いものではないと分かる。
 土方は中央に座り、開口一番に低い声で告げた。

「昨夜の辻斬りは、単独犯ではない」

 昨晩の一件で、新選組の中に裏切り者がいるという話は現実となった。
 新たに得られた情報は、永井が白状した話である。先日の会議で一度も「複数人による犯行」とは語られなかったが、永井の話では主犯を中心に何人も手を朱に染めていた。
 場の空気が一段階重くなり、雪には逃げ場が無くなる。

「永井の証言により、主導していたのは一番隊所属の早川兼定。複数の隊士を使い、日替わりで町に出ていた」

 その一言は新撰組隊士にとって信じがたいものだ。
 自分達が腕前を見極め、隊に引き入れたというのにその信頼を裏切られたのだから。
 普段は物静かな山南が珍しく声を荒げた。

「仲間が、そんなことを……」
「事実だ」

 土方は横目で山南を見据え、一切の感情を交えず言葉を切る。

「動機は、己の価値観に合わぬ者への排除。新撰組を“選ばれた剣の集団”だと信じて疑わなかった」

 思わず雪は、膝の上で指を握り締めた。震える指先は、どれだけ強く握っても止まらない。
 俯き目を閉じると、あの夜の浅葱色の羽織が脳裏に蘇る。
 そこへ、控えていた山崎が一歩前に出た。

「追加の報告です。早川は、特定の区域でのみ動いているもよう。被害者は変わらず無差別的……偶然とは言い難いかと」

 先日の会議と同じ様に、天井の方から山崎が飛び降りてきた。
 新撰組隊士という割に忍びのようだと、呑気にも雪は考えてしまう。
 しかし、その報告で室内に重い沈黙が落ちた。

「また、早川と接触している可能性のある隊士が他にも数名。夜回りの後、屯所へ戻らない例が増えています」
「……まだいる、ってことか」

 怒りを押し殺した原田の呟きに、誰も否定しない。
 重い沈黙名がなれる中、壁際に座っている沖田が軽く笑うように息を吐いた。

「随分、手広くやってるんですねぇ。これじゃ、辻斬りって言葉じゃ収まらない」

 その声音はいつも通り軽いものだが、雪には分かる。
 彼が内側で何かを強く抑え込んでいることが。