想いと共に花と散る

 勝敗など始めから分かりきっていたことだった。

「殺しはしない。全て話すなら、処罰も少しは考えてやる」

 血が滴り落ちる切っ先を喉元に突き付け、沖田は地の底から声を発する。
 壁際に追いやられ、地べたに座り込んだ永井は肩で息をしていた。傷だらけだが、致命傷は負っていない。
 永井は刀を突き付ける沖田を見上げ、しばし口を噤んだ後ゆっくり語った。

「俺は、巻き込まれただけだ」
「主犯は?」
「……早川兼定(はやかわかねさだ)。俺ともう一人、横山が日替わりで人を襲うようにあいつは指示してきた」

 思いの外、永井はすんなり己の罪を口にした。
 あまりにも簡単にことが進み、沖田は思わず突き付けていた切っ先を下げてしまう。

「複数人ってことなのか?」
「早川は、俺達以外にも大勢巻き込んでいる。中には、一番隊以外の奴もいるって話だ」
「平助、心当たりある?」
「……ああ、確かに言われてみれば………見回りの後、屯所に帰らず町に残る奴が増えた気がするな」

 沖田はギリリと音が鳴るほどに強く、刀の柄を握り締めた。

「俺の処罰は何だっていい。拷問でも何でも受ける。……ただ一つ、お願いしたい」
「……聞くだけ聞いてあげる」

 刀に着いた血を拭い、鞘に収めると強張らせていた身体から力を抜いた。
 沖田の背後に立っていた土方と藤堂も刀を鞘に収める。
 
「早川を止めてほしい。あいつは……無関係の娘を弄んでいる」
「娘?」
「………組長、貴方なら知っているはずだ。どうか、助けて……やって……ほし」

 そう言い残し、永井の意識は途切れた。大量の出血で一時的に気を失ったのだろう。
 一通り話を聞き終えた三人は、腑に落ちない想いながらも顔を見合わせる。
 不信感は拭えないが、考えていることは同じであると視線で感じた。

「総司」
「分かっています。責任は、俺が取る」
「それも重要だが、今はそれだけじゃねぇ。娘が巻き込まれているなんざ、一度も聞いてねぇぞ」

 永井が意識を手放す前に口にした娘の存在は、土方だけでなく沖田も初耳だった。
 それでも、薄々ながら感じる不安がある。
 
「……っ、まさか………」

 直接その答えを聞いた訳では無いが、確信めいた予感があった。
 突然、沖田は土方と藤堂から視線を逸らすと、物陰に隠れていた雪の元へと駆け出す。
 不安は気の所為ではない。これは、確かな現実となり得た。
 もしも、早川が弄んでいる娘というのが沖田野よく知る彼女であるならば。
 
「雪!」

 女の傷の手当に勤しんでいた雪は、息も絶え絶えの沖田を見て目を丸くする。
 傍らに横になっている女は青白い顔をしているが、命に別状はないようだ。

「まずいことになった!」

 沖田の叫びが静かな夜の京に響き渡った。