雲から顔を出した月が沖田の姿を淡く照らす。
「君達、さっき何を話していたのかな? 随分と楽しげな声が厨まで聞こえていたけど」
貼り付けられた笑顔に陰が落ちる。足元の陰が伸び、その陰は沖田の動きと共により広がった。
目は笑わず、口元だけの笑顔を浮かべながら近づけば、隊士達の表情は引き攣る。
その些細な変化が沖田の逆鱗に触れた。
「何を話していたのか、と聞いているんだ」
「べ、別に深い意味はっ―――」
「意味があるかどうかは、お前が決めることじゃない」
沖田はゆっくりと距離を詰め、やがて一人の隊士の前に立つ。
月明かりを背に受けながら立つ彼の顔には、逆光により深い闇が広がった。
「“守られる側はいらない”って、立派なことを言っていたね」
冷や汗を浮かべる隊士の喉が鳴る。恐怖に歪む表情が沖田の瞳に静かに映った。
「じゃあさ」
一際強い夜風が吹き荒び、浅葱色の羽織の裾が大きく膨らんだ。
今にも掴み掛からん勢いを押し殺し、あくまでも冷静に言葉を紡ぐ。
「君達は、誰を守るつもりで刀を握っているんだ?」
刀を握る理由は、武士を目指す上で常に問われること。
そんな問いを受けた隊士達の表情は、恐怖一色に染まった。
近づけていた顔を離し、沖田は浮かべていた笑顔を消す。ただ目の前の存在を蔑むような、冷たい目を向けた。
「組の規律を語る前に、仲間を切り捨てる理由をちゃんと説明してほしいな」
声は穏やかだが、その場の誰もが理解していた。
これは叱責ではない、警告だと。
気を抜けば溢れ出ていた怒りを押し留め、沖田はふっと息を吐く。
「次はないよ。……早川、永井、横山」
念を押すように彼らの苗字を口にした沖田は、羽織を翻しその場を去る。
そんな沖田の後ろ姿を睨み付けていたのは、名も知られない早川兼定という一人の平隊士であった。
「……永井、横山。明日の見回りの後、少し付き合え」
「は? またあそこに行くのか」
「俺はこれ以上罪が重くなるのは御免だ。組長、いや、副長にバレでもすれば命はねぇだろうが」
永井も横山も早川の提案を鵜呑みにはしない。
同じ隊の仲間であろうと、恐れる対象は早川ではなく組長なのである。
そんな怖気づいた様子の二人を横目にした早川は、舌打ちを零す。
「これは遊びではない。俺達の、存在を証明するための一歩なんだ」
新撰組内で裏切り者が現れたのは、宵闇に三日月が浮かぶ静かな夜であった。
「君達、さっき何を話していたのかな? 随分と楽しげな声が厨まで聞こえていたけど」
貼り付けられた笑顔に陰が落ちる。足元の陰が伸び、その陰は沖田の動きと共により広がった。
目は笑わず、口元だけの笑顔を浮かべながら近づけば、隊士達の表情は引き攣る。
その些細な変化が沖田の逆鱗に触れた。
「何を話していたのか、と聞いているんだ」
「べ、別に深い意味はっ―――」
「意味があるかどうかは、お前が決めることじゃない」
沖田はゆっくりと距離を詰め、やがて一人の隊士の前に立つ。
月明かりを背に受けながら立つ彼の顔には、逆光により深い闇が広がった。
「“守られる側はいらない”って、立派なことを言っていたね」
冷や汗を浮かべる隊士の喉が鳴る。恐怖に歪む表情が沖田の瞳に静かに映った。
「じゃあさ」
一際強い夜風が吹き荒び、浅葱色の羽織の裾が大きく膨らんだ。
今にも掴み掛からん勢いを押し殺し、あくまでも冷静に言葉を紡ぐ。
「君達は、誰を守るつもりで刀を握っているんだ?」
刀を握る理由は、武士を目指す上で常に問われること。
そんな問いを受けた隊士達の表情は、恐怖一色に染まった。
近づけていた顔を離し、沖田は浮かべていた笑顔を消す。ただ目の前の存在を蔑むような、冷たい目を向けた。
「組の規律を語る前に、仲間を切り捨てる理由をちゃんと説明してほしいな」
声は穏やかだが、その場の誰もが理解していた。
これは叱責ではない、警告だと。
気を抜けば溢れ出ていた怒りを押し留め、沖田はふっと息を吐く。
「次はないよ。……早川、永井、横山」
念を押すように彼らの苗字を口にした沖田は、羽織を翻しその場を去る。
そんな沖田の後ろ姿を睨み付けていたのは、名も知られない早川兼定という一人の平隊士であった。
「……永井、横山。明日の見回りの後、少し付き合え」
「は? またあそこに行くのか」
「俺はこれ以上罪が重くなるのは御免だ。組長、いや、副長にバレでもすれば命はねぇだろうが」
永井も横山も早川の提案を鵜呑みにはしない。
同じ隊の仲間であろうと、恐れる対象は早川ではなく組長なのである。
そんな怖気づいた様子の二人を横目にした早川は、舌打ちを零す。
「これは遊びではない。俺達の、存在を証明するための一歩なんだ」
新撰組内で裏切り者が現れたのは、宵闇に三日月が浮かぶ静かな夜であった。



