想いと共に花と散る

 ちらりと雪に視線を向けた小夜は、周囲を見渡してから声を潜ませる。
 雪はもちろん、その向こう側に座っている沖田も身体を寄せてその話に耳を傾けた。

「最近な、店に来るお客さん達が揃って話しよることがあるんやけど」

 そう前置きをして小夜は話し始める。

「近頃、夜道で人が斬られることが増えているらしいねん」
「それは……辻斬り?」

 沖田の的を得た言葉に小夜はゆっくり頷く。
 自身を挟んで語られる物騒な噂話に雪だけがついていけない。
 辻斬り、それが一体何を指しているのか今の雪には分からないのだ。
 
「辻斬りって?」
「憂さ晴らしとか、刀の斬れ味を確かめるために人を襲うことだよ」

 ただ一人、この場では雪だけが世間知らずであった。
 そんな雪を責め立てることなどはせず、沖田が純粋な問いに答える。
 その答えを聞いた雪の背に悪寒が走った。

「聞いている限りの話やと、うちも辻斬りの類やと思っとる。けど、何やただの辻斬りやとは思えへんくて」
「……どういう事?」

 辻斬りが何なのかを知った雪は、勝手知ったる様子で小夜に問う。
 先程の怯えた様子は消え、頬に人差し指を添えて小夜は考え込んだ。

「最近になって聞くようになったとは言え、それでもここ一ヶ月は続いとる。それに、どういうわけか、被害に遭うた人は一晩にたったの一人だけ。それが毎晩、一ヶ月続いとるんやと」

 その噂の辻斬りというのは、夜になると突然現れ、一人斬り殺すとすぐに姿を晦ますらしい。
 隣りに座っている沖田の表情が陰る。誰よりも京の内情に詳しい沖田には、その噂に心当たりがあるのだろう。

「その辻斬りは無差別に人を襲っとる。役人が狙われたかと思えば、次の日は浪士やったり町人やったり」

 浪士同士が刀を交えた事によって起きた喧嘩であれば、物騒な世の中だという話で終わる。
 しかし、被害者の中に町人もいるとなると話は違ってくる。
 その辻斬りはここ一ヶ月間、毎晩欠かさず人を無差別に襲っているのだ。
 今晩も誰かが被害に遭うかもしれない。京の治安を守る組織である新撰組として、雪と沖田は黙ってはいられなかった。

「……他にも気になることがあるんだろう?」

 沖田の低く沈んだ声は、一瞬で場の空気を凍らせた。
 問われた小夜の表情が強張る。目の前の存在に恐怖する小動物のように震える彼女は、沖田から視線を逸らした。