想いと共に花と散る

 やがて宴は終りを迎え、酒に潰れた者から順に部屋を出ていった。
 夜は深まり、提灯の火も落とされる。宴の騒がしさは夜の静けさに消えた。

「……今日は、ここまでだ」

 近藤の一言で宴は呆気なく幕を下ろした。
 芹沢は平山と田中の肩を借りながら、奥の部屋へと運ばれていく。
 雪は、その背中を後片付けをしながら見送った。

(……さっきの言葉)

 昼間に交わした、芹沢との短い会話が脳裏を過る。

『優しい連中ほど、血を見る』

 その言葉の意味は、まだ分からない。だが、胸の奥に冷たいものが沈んでいくのを確かに感じていた。

「雪、いるか」
「土方さん。どうしましたか?」

 畳の上に転がった盃を拾っていると、不意に離れた所から土方の声が聞こえた。
 振り返ると、彼は離の入口に立ち真っ直ぐと視線を送っている。
 雪は拾っていた盃を重ねて傍に置き、土方の元へと足早に向かった。

「今夜は早めに寝ろ。少々騒がしくなるだろうからな」
「何かあるんですか? 二次会とか?」
「……まあ、そんなところだ」

 雪の疑いのない問いに、土方は一瞬返答を渋る。
 目の前の小姓は、これから何が起きようとしているの何も知らない。血の気を知らずに生きている純粋無垢な子供同然なのだ。
 突然黙った土方を見上げる雪の目には、そんな幼さが残っている。
 土方にはそんな目で見つめられることが、今は苦痛でしかなかった。

「あんまり飲み過ぎたら駄目ですよ? 土方さん、お酒弱いんですから」
「なっ! っ……なんで、てめぇから言われなきゃならねぇ………」
「私、この間の事忘れていませんからね。知っているのは総司君と斎藤さんくらいですけど、他の皆さんに言いふらすことだって――」
「だあー! それ以上はやめろ!」

 年甲斐もないのはお互い様。
 年頃とは思えないほど巫山戯る雪も、年下相手の冗談に本気になる土方も。
 
「嘘ですよ。酔い潰れた土方さんを運べるように強くなってあげます」
「……そんな強さは求めなくていいんだよ」

 いつから、こうして冗談を言い合えるようになったのだろう。 
 血まみれの刀を向けてきた相手、苦手だと思った相手、けれど嫌いになれない相手。
 気が付けば、目が離せなくなっていた相手。

「今夜は布団に包まって寝るんだな」

 どうしてそこまで寝ることを強要するのかは分からないけれど。

「分かりました。でも、だからといって騒ぎすぎないでくださいね。夜も遅いですから」

 少しくらい、疑えばよかった。
 もっと感じていた違和感に目を向けて、問いただせばよかった。

 どうしてそんなに、苦しそうな顔をするんですか――……って。