はっと目を覚ましたその朝は、あまりにも普通だった。
夜明けと共に屯所が目を覚まし、庭ではいつも通り木刀の音が響く。
誰かが欠伸を噛み殺し、誰かが昨日の見回りの愚痴を零す。そんな普段通りすぎる朝が、今日も巡り巡ってやって来た。
まだ肌寒い頓所の廊下を進み、向かうは厨。
今日は炊事当番の日ではないのだが、することもないため手伝いをしに向かっているのである。
「ちょ、おい左之さん! 切り方雑すぎ!」
「ああ? 切れりゃいいだろ!」
厨の入口へと差し掛かった時、聞こえてきたのは耳馴染みのある原田と藤堂の口論。
朝から元気なものだと思わず笑みが溢れた。
(今日は平助君と原田さんが当番の日か)
中からは豊かな味噌汁の香りが漂ってくる。変わらない日常を告げるその香りは、普段の雪であれば喜ばしくも感じただろう。
けれど、今日はそうとも行かない。
(……昨日と、何も変わらないな)
何も変わらないからこそ、胸の奥が落ち着かなかった。
理由は明白。昨日、偶然立ち入ってしまった空き部屋で聞いてしまったあの話が理由だった。
掟、命、切腹――……あの言葉が、頭から離れないのだ。
「お! 雪じゃん。おはよ」
「おはよう、平助君と原田さん」
「早ぇなぁじゃねぇか。てか、お前当番じゃねぇだろう。何でここにいんだ?」
炊事当番は雪の看板。そんな墳頂が組織では流れ始めていたため、こうして当番でないのに厨に行っても怪しまれることはない。
しかし、釜の前に立つ二人は、何処か不審げな目を雪に向けていた。
「雪、何かあったか?」
「……ううん、なんでもないよ。いつもの癖で早起きしちゃったから、何か手伝えないかなって」
流石の洞察力に、咄嗟に嘘を吐いてしまった。
この二人は知らない。昨日、空き部屋で今後の新撰組を大きく変える話し合いがされていたことなど。
出来上がった朝餉を運び、離れには皆が集まる。
笑い声もある。冗談も飛ぶ。芹沢一派は相変わらず酒臭く、昼間から杯を傾けている者もいた。
いつもと同じやり取り、同じ朝の雰囲気が当たり前にあった。
だが、近藤と土方はほとんど口を開かない。そしてそのことに気づくのは、話を知っている雪だけである。
「……全員、庭に出ろ」
皆が朝餉を食べ終わる頃、土方の短い一言が離れに響く。
冗談めいた空気が、ぴたりと止まった。
「なんだなんだ?」
「朝っぱらから集合かよ」
何も知らない隊士達は、ぶつぶつと文句を言いながらも庭へ出る。
雪も皆に習って端の方に立った。ただ一人、怯えに全身を震わせながら。
夜明けと共に屯所が目を覚まし、庭ではいつも通り木刀の音が響く。
誰かが欠伸を噛み殺し、誰かが昨日の見回りの愚痴を零す。そんな普段通りすぎる朝が、今日も巡り巡ってやって来た。
まだ肌寒い頓所の廊下を進み、向かうは厨。
今日は炊事当番の日ではないのだが、することもないため手伝いをしに向かっているのである。
「ちょ、おい左之さん! 切り方雑すぎ!」
「ああ? 切れりゃいいだろ!」
厨の入口へと差し掛かった時、聞こえてきたのは耳馴染みのある原田と藤堂の口論。
朝から元気なものだと思わず笑みが溢れた。
(今日は平助君と原田さんが当番の日か)
中からは豊かな味噌汁の香りが漂ってくる。変わらない日常を告げるその香りは、普段の雪であれば喜ばしくも感じただろう。
けれど、今日はそうとも行かない。
(……昨日と、何も変わらないな)
何も変わらないからこそ、胸の奥が落ち着かなかった。
理由は明白。昨日、偶然立ち入ってしまった空き部屋で聞いてしまったあの話が理由だった。
掟、命、切腹――……あの言葉が、頭から離れないのだ。
「お! 雪じゃん。おはよ」
「おはよう、平助君と原田さん」
「早ぇなぁじゃねぇか。てか、お前当番じゃねぇだろう。何でここにいんだ?」
炊事当番は雪の看板。そんな墳頂が組織では流れ始めていたため、こうして当番でないのに厨に行っても怪しまれることはない。
しかし、釜の前に立つ二人は、何処か不審げな目を雪に向けていた。
「雪、何かあったか?」
「……ううん、なんでもないよ。いつもの癖で早起きしちゃったから、何か手伝えないかなって」
流石の洞察力に、咄嗟に嘘を吐いてしまった。
この二人は知らない。昨日、空き部屋で今後の新撰組を大きく変える話し合いがされていたことなど。
出来上がった朝餉を運び、離れには皆が集まる。
笑い声もある。冗談も飛ぶ。芹沢一派は相変わらず酒臭く、昼間から杯を傾けている者もいた。
いつもと同じやり取り、同じ朝の雰囲気が当たり前にあった。
だが、近藤と土方はほとんど口を開かない。そしてそのことに気づくのは、話を知っている雪だけである。
「……全員、庭に出ろ」
皆が朝餉を食べ終わる頃、土方の短い一言が離れに響く。
冗談めいた空気が、ぴたりと止まった。
「なんだなんだ?」
「朝っぱらから集合かよ」
何も知らない隊士達は、ぶつぶつと文句を言いながらも庭へ出る。
雪も皆に習って端の方に立った。ただ一人、怯えに全身を震わせながら。



