想いと共に花と散る

 全て初めから覚悟していたことだった。
 組織として皆をまとめるために掟を作る。その掟を作り出すのは、自分自身であると。

「背く者には、罰を。それが……切腹であってもだ」

 半端な覚悟ではこの先生きていけない、だからこそ、どれだけ反感を買おうと重い罰則を作る。
 迷い無く言ってのけた土方の言葉に、近藤の肩が僅かに揺れた。
 それは恐れか、覚悟か。あるいは、その両方か。

「……随分と、鬼になったな」

 近藤の言葉に、土方は小さく笑った。

「最初からだ。でなきゃ、この役は務まらねぇ」

 その時、障子の向こうで微かな人の気配がした。近藤と土方はすぐさまその方向へと視線を向ける。
 障子の向こうからは、凛とした、けれど幼さを残した少女のような声がした。

「……失礼、します」

 遠慮がちな声と共に、障子が開く。盆に茶を載せた雪が顔を覗かせた。

「あ……っ」

 室内の空気に、すぐ気づいたのだろう。雪は言葉を失い、足を止めた。

「す、すみません……。お茶をお持ちしたんですけど……」

 一瞬、張り詰めた空気が揺らいだ。
 そこに立っているのは、場違いなほどに清廉潔白な少年だった。

「……ああ、すまない。置いてくれ」

 雪は近藤の言葉に小さく頷き、その場に静かに盆を置く。
 あくまでも冷静に、何も知らない何も聞いていないと態度で示す。
 けれど、雪は聞いてしまった。掟。縛る。命を賭ける覚悟。そして……切腹という言葉。
 立ち去ろうとした雪の背に、土方の声が飛ぶ。

「……雪」
「は、はい」
「今の話、お前も例外じゃねぇからな」
「……はい」

 まるで脅しのような言葉。雪は振り返ることはできず、背を向けたまま小さく頷くしかなかった。
 この部屋で生まれようとしているものが、これから多くの人の運命を縛り、守り、そして――切り捨てるものだと、本能的に理解してしまったから。
 雪が去った後、部屋の中には再び沈黙が落ちる。
 沈黙の末、近藤は静かに言った。

「……戻れなくなるな」
「最初から、戻る気なんてねぇよ」

 土方はそう言い切る。その目に、迷いはなかった。