想いと共に花と散る

 組織として認められるようになったからと言って、名前が変わったからと言って、一気に何かが変わったというわけではない。
 もちろん、これまでより一層隊の雰囲気は厳格なものになった。
 それでも彼らは変わらない日常を送る。朝起きたらご飯を食べ、稽古をして市中の見回りに出る。帰ってきたら各々好きな時間を過ごして、また皆でご飯を食べる。
 その中には、当たり前に雪という一人の少年がいる。
 少年の役割は主に雑用。皆の食事を作り、屋敷の掃除をし、汚れた衣服の洗濯をする。
 そんな仕事も時には誰かと共にするのが当たり前になっていた。
 この日も、朝から厨に二人分の影があった。
 
「ご飯を炊く時の水は、手を中に入れて甲が隠れるくらいまで入れるの」
「……これくらい?」
「うん、それくらい。後は蓋をして、火加減を常に確認する」

 轟々と火が揺れる釜を覗く二人。今日も変わらず炊事当番の雪と、その手伝い兼料理の練習をしに来た沖田の姿がある。
 木の筒を握り締め、微かに冷や汗を流す沖田の隣で雪は笑みを浮かべた。

「それじゃあ、次は味噌汁を作ろっか」
「雪先生の味噌汁の作り方を教えてもらえるなんて、光栄だなぁ」
「もー、揶揄ってるでしょ」
「そんなことはないさ。本当にそう思っているよ?」

 沖田が飄々としていて、事あるごとに揶揄ってくる人間であることはとうに知っている。
 だからこの時も、雪は軽く受け流すことに集中した。
 釜の前から移動して事前に用意していた食料を手に取る。形の歪な大根に芋、そして豆腐。

「……この時代じゃ、豆腐も贅沢品なんだなぁ………」

 正式に会津藩に組織として認められたことにより、新撰組と名を変えた彼らには、不定期だった活動資金が定期的に与えられるようになった。
 その御蔭で、少しではあるが食事が豪華になっていた。
 
「何を言っているのさ。油揚げや芋が入っているだけでも相当贅沢な方だよ。雪って、もしかして実家が太かったのかなぁ」

 お坊ちゃまだったんだねぇ、と釜の蓋を開けながら沖田は笑う。
 ただの冗談のつもりだったのだろう。雪の独り言も冗談だと思っているようである。
 けれど、雪はそんな沖田の様に笑えなかった。むしろ、なんてことを言ってしまったのかと後悔すらしている。

(最低じゃん……。この時代でこれだけのご飯が食べられるだけでも、有り難い事なのに………)

 馴染めたと思い込んでいただけで、実際はまだこの時代に馴染めていないようだ。
 いつ何処で自分が未来から来た部外者であるとバレるのか、もはや時間の問題なのかもしれない。

「雪、次は大根を切ればいいのかな」
「あっ、う、うん。お願い。私は、豆腐を切るね」

 それでも笑って名前を呼んでくれる人が目の前にいて。
 自分はその優しさに甘えてしまって。
 彼らとの距離が近づくたびに、必ず訪れる未来も少しずつ追いかけて来ているんだって。

 私は気付いても知らないフリをした。