長い沈黙の後、雪は裸足のまま庭へと躍り出た。
月明かりだけが辺りを照らす中、雪は長い髪を靡かせて振り返る。
縁側には苦い顔をする二人の恩人がいた。彼らの表情とは真逆の、満面の笑みを浮かべて雪は言う。
「だから、もっとたくさん雪って呼んでください。私、皆さんに呼んでもらえるこの名前が大好きです!」
言いたいことを言った後に残るのは、重石を全て取り払った開放感だった。
こうして心の底からの願いを口にできるのも、心の底から笑えるのも、彼らに出会ってから許されたこと。
持っていなかったものを、知らなかったことを、彼らは幾つも与えてくれたのだ。
「あー、言うこと言ってスッキリしたから眠くなってきたぁ……。私、もう寝ますね。二人とも、おやすみなさい!」
嵐は突如現れてあっという間に過ぎ去る。
一瞬の内に月下に現れた少女は、幼さの残る笑みを落として姿を消した。
縁側に残された近藤と土方は、呆気に取られた顔を互いに見合わせる。
「トシ……。あの子は一体、何を見てきたのだろうか」
「……俺達には知りたくても知れねぇことだろうよ。ただ、あいつにあんな顔をさせる人間が、世の中にはいるらしいな」
今夜ばかりは酒を用意していなくて正解だったと思い知る。
あんな話を聞かされては上等な酒も不味くなってしまうではないか。
(またあの時の顔だ……。何もかもがどうでもいい、全部に絶望したみてぇな顔………)
ただ辞めさせたかった。そんな顔をするくらいなら、上から別の皮を貼り付けてでも変えたかった。
折角消えたのに、あの日に刻まれた首の傷が今では思い出せないほどに消えたのに。
「私達は、何をしてやれる。何をすれば、あの子はありのままの姿で生きられる」
「そいつは………難しいだろうな。今のままだったら」
「では、せめて吐き出せる場所を作ってやるくらいはできないか。こうした静かな夜だけでもいい。あの子が一人ではなく、誰かと共にあれる時間を」
つくづくこの人はお人好しだ。何処の馬の骨ともしれない女を匿うなんて言い出して、今ではその身を案じている。
もしもこの人が局長ではなく俺が局長だったら。きっとあの子供は今頃空の上だっただろう。
(そうか……。この人だから、勝っちゃんだから受け入れられるのか)
笑えば、どれだけ暗い雰囲気でも明るく変えられる。一言命を下せば、皆がその言葉に従う。
近藤勇という男は、生まれながらに剣術の才はなくとも、周りを引き付ける力を持っていた。
だから俺は、あんたに付いて行くことにしたんだ。あんただったから、俺は、あいつらは今もここにいる。
「……そうだな。俺も、協力くらいはする」
近藤が望むから、それも理由ではある。
けれど、それだけではない想いもあった。これは土方にしかない、微かな望み。
「俺にも居場所はあるんだってことを教えてくれた人がいた。だから、あいつにも居場所があるって教えられる人間が────……俺達になるように、な」
月明かりだけが辺りを照らす中、雪は長い髪を靡かせて振り返る。
縁側には苦い顔をする二人の恩人がいた。彼らの表情とは真逆の、満面の笑みを浮かべて雪は言う。
「だから、もっとたくさん雪って呼んでください。私、皆さんに呼んでもらえるこの名前が大好きです!」
言いたいことを言った後に残るのは、重石を全て取り払った開放感だった。
こうして心の底からの願いを口にできるのも、心の底から笑えるのも、彼らに出会ってから許されたこと。
持っていなかったものを、知らなかったことを、彼らは幾つも与えてくれたのだ。
「あー、言うこと言ってスッキリしたから眠くなってきたぁ……。私、もう寝ますね。二人とも、おやすみなさい!」
嵐は突如現れてあっという間に過ぎ去る。
一瞬の内に月下に現れた少女は、幼さの残る笑みを落として姿を消した。
縁側に残された近藤と土方は、呆気に取られた顔を互いに見合わせる。
「トシ……。あの子は一体、何を見てきたのだろうか」
「……俺達には知りたくても知れねぇことだろうよ。ただ、あいつにあんな顔をさせる人間が、世の中にはいるらしいな」
今夜ばかりは酒を用意していなくて正解だったと思い知る。
あんな話を聞かされては上等な酒も不味くなってしまうではないか。
(またあの時の顔だ……。何もかもがどうでもいい、全部に絶望したみてぇな顔………)
ただ辞めさせたかった。そんな顔をするくらいなら、上から別の皮を貼り付けてでも変えたかった。
折角消えたのに、あの日に刻まれた首の傷が今では思い出せないほどに消えたのに。
「私達は、何をしてやれる。何をすれば、あの子はありのままの姿で生きられる」
「そいつは………難しいだろうな。今のままだったら」
「では、せめて吐き出せる場所を作ってやるくらいはできないか。こうした静かな夜だけでもいい。あの子が一人ではなく、誰かと共にあれる時間を」
つくづくこの人はお人好しだ。何処の馬の骨ともしれない女を匿うなんて言い出して、今ではその身を案じている。
もしもこの人が局長ではなく俺が局長だったら。きっとあの子供は今頃空の上だっただろう。
(そうか……。この人だから、勝っちゃんだから受け入れられるのか)
笑えば、どれだけ暗い雰囲気でも明るく変えられる。一言命を下せば、皆がその言葉に従う。
近藤勇という男は、生まれながらに剣術の才はなくとも、周りを引き付ける力を持っていた。
だから俺は、あんたに付いて行くことにしたんだ。あんただったから、俺は、あいつらは今もここにいる。
「……そうだな。俺も、協力くらいはする」
近藤が望むから、それも理由ではある。
けれど、それだけではない想いもあった。これは土方にしかない、微かな望み。
「俺にも居場所はあるんだってことを教えてくれた人がいた。だから、あいつにも居場所があるって教えられる人間が────……俺達になるように、な」



