想いと共に花と散る

 もしも、本来自分がいるべき世界で男として生まれていたら。この時代に迷い込むことが初めから決まっていたら、自分は彼らとともに刀を持って戦えたのだろうか。
 せめて身体から男であれば、こんなやるせなさを感じる必要などなかったはずなのに。

「母が私を産んですぐに亡くなって、父は私が十二歳になって再婚した。今の母親は父の再婚相手です。初めの頃は新しい母は私のことを可愛がってくれたんですけど、いつの日からかこう言うようになって────」

 ────あんたが殺したのよ。あんたのせいで、前の母親は死んだのよ。

 もう二度と、母が名前を呼んでくれることはなかった。
 父も初めの頃は庇ってくれたが、だんだん疲れたのかいないものとして扱い始めた。
 だから、望まれない子。産まれてくるべきではなかった、醜い子。

「でも、おばあちゃんだけは見捨てずにいてくれました。分かりやすく名前を呼ぶことを避ける両親と違って、おばあちゃんだけは名前を呼んでくれた。それがもう、嬉しくて嬉しくて……。生粋のおばあちゃんっ子ってやつですかね、大好きなんですよ」

 少しでも明るく取り繕って、笑って話さないとおかしくなりそうだった。
 改めて自分がどういう人間なのか考えると、それは目を逸らしたくなるくらい酷いもので。

「多分、死んだ本当のお母さんが考えた名前だから、呼びたくなかったんだろうな」

 本当の母親であれば、愛おしく思ってあの名前を呼んでくれたのだろうか。
 考えてもどうにもならない夢物語ばかりが浮かんでは消える。夜空を見上げたまま固まってしまった首は、どうしても動かせなかった。
 動かしてしまえば、今、近藤と土方を見てしまえば、自分を受け入れてくれる人がいる安心感から壊れてしまいそうだったから。

「そんなこと、……そんな事あって良いはずがないだろうっ………。君の名は、偽りのない君の名は、……あんなにも美しいと言うのに」

 もしかしたら、死んだ母が付けた名前をそう言ってくれる人を探していたのかもしれない。
 他者が認めてくれれば、自分自身も認められる、そんな気がしていたから。

「……ありがとう、ございます。でも、今は“必要のない名前”ですから。ここで生きていくために、もらった名前があります。私は、ここで生きていく限りその名を名乗ります」

 その名を名乗ることが己の決意そのものであった。
 本当の名前を二人が知っていようと、その気になれば呼んでもらえるとしても、今は一人の少年として生きているのだ。
 それを簡単に覆すなど、仲間としてあってはならない。死にたがりの少女は少年となってそう思うようになっていたのだ。