想いと共に花と散る

 そしてそんな優しさに私は甘えていると、土方さんも気付いているんだよね。
 だから、何かあれば心配してくれるし、助けに来てくれる。その優しさは、私が小姓だから向けているのかな。

 土方さんは、多摩の農家生まれ。意外にも十人兄弟の末っ子で、甘やかされて育ったんだって近藤さんは言った。
 周りから「トシ君」って呼ばれていたみたいで、近藤さんもそう呼んでる。私も呼んだらどんな反応するんだろう。ちょっと見てみたいかも……。
 近藤さんや総司君と出会ったのは、実家の薬を売り歩いている時に道場破りだと乗り込んだ先だったんだって。
 彼らの始まりは、試衛館っていう道場からなんだ。いいな、私もこの時代に男として生まれていたら、土方さん達と剣術を学べたりしたのかな。

「……話すほどのことじゃねぇ。家に居場所がなくて、外をふらついてただけだ。剣も、最初は怒りの捌け口だった」

 何だか似てるな。何処にも居場所がなくて、全部がどうでも良くて、ふらふらと適当に生きていた感じ。
 
「……私も、似てるな………」

 ああ、そっか。そういうことだったんだ。
 私を屯所に連れて来て、近藤さんの前で説教した時のあの言葉って、そういうことだったんだ。
 土方さんも同じ様に家に居場所がなくて、絶望してがむしゃらになった時代があるから、同じことを言う私に怒ったんだ。
 なんだ、土方さんって実はとっても優しい人なんだね。

「てめっ────……いや、この際もういいか」

 彼らは全く違う場所の生まれだった。それでも、同じく剣の道に進み夢を見て巡り合ったのだろう。
 そうして、────家族になった。

「次は、雪君についても教えてくれるかい?」

 何処の馬の骨ともしれない一人の少女は、今は武士を志す者達に囲まれて男として生きている。
 けれど、その少年にも過去がある。その過去はいつの間にか心の奥に閉ざし、隠してしまったものであった。

「私は、望まれない子でした」

 ふわりと生ぬるい夜風が雪の長い黒髪を揺らす。
 隣りに座っていた近藤と、柱にもたれていた土方はバッと雪に向き直った。
 目を見開いて固まる二人を横目に、雪はゆっくりと顔を上げて夜空を見上げる。
 
(あの時は、満月だったな……)

 不逞浪士を斬った後に刀を向けてきたあの鬼の背に浮かんでいた月は満月だった。
 しかし、今、空に浮かんでいるのは不格好に欠けた月。
 何だか未熟な自分を嘲笑っているかのように感じてしまった。