想いと共に花と散る

 まだまだ彼らのことなんて知らないことの方が多い。
 いつも気が付いた頃に感じる距離感は、彼らとの時間の差による抗えない現実が突き付けてくるのだ。
 
「んなところにいると、風邪引くぞ」
「きゃあ! ……気付いて、いたんですか………?」
「おお、雪君か。そんな所にいないで、ほら、こっちに来なさい」

 トントンと自身の隣を叩いて近藤は笑い掛ける。その奥では特に表情を変えることもなく、真顔の土方がいた。
 雪は物陰から身を出し、戸惑いつつも近藤の隣に腰を下ろした。
 できる限りものを建てないようにして気配を消していたのだが、そんな思いも虚しくとっくに気付かれていたらしい。

「人の話を盗み聞くとは、随分と度胸あるじゃねぇか」
「ははは、雪君も眠れなかったのかな」
「盗み聞くつもりはなかったんですけど、外に出たら声が聞こえたので……つい」

 普段であれば、二人が話しているところを見かけても気にすることはなかった。
 それなのに今夜に限って盗み聞いて気付かれたのは、色々と気になることが重なっていたからだ。
 一つは、会津藩邸で松平から一体何を何言われたのか。
 そしてもう一つは、二人は互いをあだ名で呼び合うほどの仲であるのかということ。
 初めて二人にあった時、近藤は土方のことを「トシ」と呼んでいて今も変わっていないが、土方は「近藤さん」と呼んでいた。
 それが聞き間違えでなければ、「勝っちゃん」と呼んでいたのである。
 二人がそんなに気を許し合った間柄であったのかと、知らないことを知ってしまった雪は気になってしまった。

「そうだろうとも。突然あんなことを言われれば、誰だって気になって眠れないさ」

 他の皆はぐっすりといびきをかいて寝ているけれど。
 喉まで出かかった言葉はグッと飲み込んで、雪は隣りに座っている近藤の顔を見上げる。
 夜空を見上げる彼の横顔は穏やかで、やっぱり局長として厳しい顔をするよりも笑っている方が似合う人だ。
 
「よく、ここまで付いて来てくれたな」
「え………」
「こうして静かな時間になると、ふと考えるんだ。まだ雪君がここへ来てからさほど時間は経っていないのに随分と馴染んだなと」

 もしもあの時、浪士に絡まれているところを助けてくれたのが土方でなければ。
 近藤が行く宛のない雪に居場所与えてくれなければ。雪は今頃、どうなっていたのか想像もできない。