想いと共に花と散る

 その中には当然沖田の顔もあり、雪と藤堂は苦い顔を互いに向けた。
 一瞬沖田からの視線を感じた気がするが、二人は気づかないふりを貫き通す。今反応を見せれば厄介事に鳴るのは明白だ。
 
「おお! 今日は平助と雪君が当番の日だったか。いやぁ、雪君が作る味噌汁は美味いんだよなぁ!」

 ぞろぞろと人が集まってきた離れの中に、近藤の寝起きとは思えない活発な声が響く。
 眠気眼を擦りながら席に着く者、読みかけの書物を片手にしたままの者、皆の和から少し離れた場所を陣取る者、それぞれが自由気ままに朝餉の時間を迎えた。

「それではいただこう」

 近藤の声を皮切りに皆が目の前の食事に手を付ける。雪は沖田と藤堂の間にちょこんと座り、皆の反応を待った。

「うむ、今日の味噌汁も美味いぞ! 流石だな、雪君」
「ああ、悪くない」
「お口に合ったのなら良かったです」

 初めて雪が食事を用意した日から、近藤は随分と雪の作る味噌汁が気に入ったらしい。
 味噌汁は毎日欠かさず食卓に並ぶし、使っている味噌は他の人も使う同じ代物だ。それでも雪が作るものは何か特別らしく、近藤は目に見えて上機嫌になっていた。

「雪、雪」
「ん?」

 周りに聞こえるか聞こえないかの声量で藤堂が話し掛ける。
 反対側に座っていた沖田もコソコソとした藤堂の様子が気になるようで、横目で見てきた。

「沢庵の出来、聞かなくていいのか?」

 雪が炊事当番になった日には、一つ変わった任務が増える。そして、それはとある条件が重なったときのみ発生する面倒なものだ。
 土方に沢庵の出来栄えを評価してもらう、という何とも精神を擦り削られるもの。

「あのー、土方さん」
「あ?」
「きょっ、今日の沢庵はどうでしょう。お口に、合いましたか……?」

 すでに皿の上から消えた沢庵。皆の輪には入ろうとせず、一人黙々と食べ続ける土方はギロリと凄みを利かせた目で雪を睨む。
 彼はたっぷり数十秒黙った後、

「辛ぇ……」

 たった一言そう言って目を逸らした。
 一同が土方に視線を向けていたが、意にも返さず再び黙って食べ始めてしまう。

「二勝二敗か」
「手強いねぇ。少しくらい褒めたっていいだろうに」
「好きなもんには妥協したくねぇっていう人間の性なんだろうよ」
「いや、どの目線で言ってんだ左之さん……」

 好きなものには妥協したくない、頑固な土方の性格ならば有り得るのだろうか。

(なら、褒めてもらえるように頑張るしかないよね……。せめて好きなものは美味しいと思って食べて欲しいし)

 誰だって好きなものに関しては邪魔をされたくないし、妥協だってしたくない。
 それが仕える相手であるならばなおのことであった。