想いと共に花と散る


「……そうかい、それはよかった」

 たとえ自分の心に深い傷が刻まれようと、罪悪感に押し潰されそうになろうとも、この笑顔を見られるのなら耐えられた。
 
「ゴミを捨ててくるねぇ」
「ありがとう、おばあちゃん」

 重い腰を上げた祖母が去っていく様を眺めながら、ふっと強張っていた口周りの筋肉を緩める。
 上手く、笑えていただろうか。
 祖母は勘が鋭い。一瞬でも表情を曇らせれば心配してあれやこれやと問い詰めてくるのだ。

「大丈夫、本当に大丈夫だよ。おばあちゃん」

 祖母はこの場にいない。だからこの言葉は自分自身に言い聞かせるためのもの。
 何も苦しくない、何も辛くないと自身の心を騙すためのものである。

「……何をしようかな」

 そろそろ夕食の時間か。空を見上げればライターで炙ったのかと思うほどにはっきりと橙色に染まっていた。
 祖母がこの場を離れたのは、夕飯の準備をするために台所へと向かったからだろう。そうなれば母もその手伝いをしているはず。
 本来であれば自分も手伝いに行くべきなのだが、どうにも母が台所へと近づけたがらないからここでも恐らく入らせてもらえない。
 しかし、それでは何もすること無く暇を持て余すことになる。
 
「暇だなぁ」

 趣味の一つや二つあればこういう時に役立つのだろうが、生憎一つも持ち合わせてはいない。
 自分でもつまらない人間だと思う。けれど、時間を忘れるくらい没頭できるものに出会えないのだから仕方がないだろう。
 庭の方へ足を投げ出し、縁側に仰向けになって寝転がる。
 こういった昔ながらの日本家屋にいると、ぼんやりと時間を浪費していても不思議と心が安らいでいった。

「……散歩にでも行こう」

 去年は帰省できなかったがその前の年は、暇があると祖父母と両親の目を盗んで家の中を探索したものだ。
 これだけ古く趣のある家であれば、何かお宝の一つや二つあるだろう。
 半ば探検する心持ちの中、反動をつけて起き上がるとスリッパを履いて庭へと降り立った。