根暗な貴方は私の光

 
「確かに、やり残したことがたくさんありますね」
「小瀧……さん………」

 地面に蹲る蕗の身体を抱いていた和加代が頭上から聞こえてきた小瀧の声に微かな動揺を見せる。
 ずっと目の前の景色に目を向けていた紬は、この丘に来てから初めて彼らの方に視線を向けた。
 そして、深い絶望が身体を襲う。

「もっとたくさんのことを伝えるべきでした。もう、手遅れでしょうが」
「まだ間に合うんじゃ、今ならきっと……」
「いいえ、もうどうしようもないんです」

 和加代は信じていたかったのだろう。好きな人と共に歩める明日があることを。
 教室の中で紬は和加代のどうしようもない恋心に気が付いていた。好きという気持ちに抗えず、ただひたすらにその想いを引き摺って耐えなければならない。
 紬も同じ想いを持っているから、彼女の苦難と後悔が痛いほど分かったのだ。
 和加代の言葉を遮るように、小瀧は首を振る。否定された和加代はその続きの言葉を発すること無く、小瀧を見つめたまま固まった。
 絶望したのだ。小瀧はこのまま戦場へ向かい死ぬことを受け入れている。生き残るという意思がないのだ。
 死んでしまえば二度と会うことはできない。小瀧が後悔しているように、もっとたくさん彼と話していればと和加代もどうしようもない後悔に苛まれた。

「出会わなければよかったと思わせてくるこの世界は、本当に残酷ですね」

 自嘲するように小瀧はくすりと笑った。愛想笑いが張り付いた顔は、もう二度と自然に心から湧き上がる喜びや幸せに染まることはない。

「そん、な……」

 和加代は何も言えず、行き場を失った視線を膝の上に落とした。
 もう戻ることはできない。彼らを止めることも、未来を変えることもできないのだ。