根暗な貴方は私の光

 遅れて紬達の元へと駆けつけた江波方達は、安心したのか紬の背後で情けない声を上げていた。
 振り返れば息も絶え絶えで今にも倒れてしまいそうな和加代がいる。軍人である江波方と小瀧は、汗はかいているが表情は涼し気であった。
 未だ息が上がったままの和加代の身体を小瀧が支え、昨晩ぶりに皆の顔が揃う。

「皆さんは、これからどうされるのでしょう」

 上がる息を押し殺しながら和加代は不安げな目を蕗に向けた。彼女は蕗の目を見ているとは言えこの場にいる皆に問うたのだろう。
 少なくともそう捉えた紬は視線を爪先に落とし、半ば独り言のように呟く。

「私はまた仕事を探しに町を出るわ」

 かつて全てを捨てこの町に来たように、今の自分にはもう何も残されていない。だから、失ったものを取り戻そうと足掻くのではなく、新しく何かを得るために踏み出そうと思った。
 今更、何かを求めることはしない。だって、もう十分に心が満たされたのだ。
 好きな人に好きだと伝えられた。好きな人から好きだと言ってもらえた。それだけで十分だったのだ。

「私達は基地に戻ります。そして戦場に行くことでしょう」

 曇りのない目を向けて小瀧は宣言する。彼の隣りにいた和加代が皆に気づかれないよう顔を失せた。
 しかし、彼女の顔を覆う前髪の隙間から絶望に滲んだ瞳が覗いていた。その瞳を見てしまった紬は思わず目を逸らす。
 見ているだけで今決意した想いが崩れていくような気がしたのだ。

「和加代は?」
「……実家に帰ることになると思う。学校は無くなってしまったし、家業を継ぐことになるでしょうね。蕗ちゃんはどうするの?」

 同じ年頃の女の子同士であるからか、二人の仲はいとも簡単に縮んでいた。まるで昔の自分達を見ているようで紬は微かな胸の痛みを感じる。
 あの時、全てを投げ出さず彼女を頼っていれば良かっただろうか。一人で全てを捨てず、彼女に助けを求めていればもっと違う未来が待っていたのだろうか。
 今更どうしようもない後悔ばかりが押し寄せ、紬の心の中をぐちゃぐちゃに掻き乱していく。
 別れを告げたはずなのに、もう会わないと誓ったはずなのに、今ではまた彼女の笑顔を見たいと思っている。

「答えなんてすぐに出せるものではないわ」

 だからそんな自分の愚かな願望を振り払うように、紬は一歩愛妹の方へ踏み出した。
 煤で汚れた頬に触れながら紬は彼女に語りかける。真っ直ぐと紬を見ていた蕗は一瞬目を泳がせた後、もう一度紬を見上げた。

「私は、この町に残る。皆に出会ったこの町が大切で離れたくなくて、大好きだから」