「こ、小瀧さんが……巻いて、くれたんです」
紬ははっと息を呑んだ。怪我をしていたいはずなのに傷口を愛おしげに見る和加代とずっと昔に絶縁した親友の姿が重なる。
何度自分は和加代に親友の姿を重ねただろう。見れば見るほど、和加代には親友とよく似ていた。
誰かを恋い慕う乙女さながらの幸せそうな表情が。
「……良かったわね」
何と返せばいいのか分からず口をついて出たのはそんな言葉だった。
改めて我に返ってみればおかしな言葉であったが、紬の言葉を聞いた和加代はふと顔を上げる。
柔らかく目を細め、頬を紅潮させ、結ばれた口元は微かに上がっている。
「はい!」
和加代にとってその指先の傷は慕う相手と共にいたという何よりもの証拠なのだ。
慕う相手が包帯を巻いてくれたから、心配してくれたから傷すら愛おしい。恋は盲目とよく言うが、盲目なのが恋をする上で幸せなのだろう。
恋という闇の中で見えるのは自分が慕う相手だけなのだから。
「俺、小瀧さんを探してきます」
「えっ、ああ。うん、お願いします」
どうして今になって小瀧を探しに行こうと思い立ったのだろうか。聞き返すよりも先に江波方は教室を出ていってしまった。
追いかける隙も与えられず紬は渋々和加代に視線を戻す。まだ若いというのに彼女の目の下には微かに隈が浮かんでいた。
紬は和加代を連れて教室の端に移動する。窓辺に沿って座った二人は、互いに恋い慕う相手を思い浮かべる。
「好きになると、自分の気持ちに嘘を吐けなくなるのよねぇ」
ぼんやりと天井を見上げながら呟くと、驚きに目を見開いた和加代が見つめてくるのが視界の端でに見えた。
天井に向けていた目を和加代へと移した紬は、屈託のない笑顔を浮かべる。
「和加代ちゃん、好きな人いるでしょ」
「なっ!」
「あっはは。若いっていいわねぇ」
「そ、そんな! 紬さんだって若いじゃありませんか。と言うか、どうしてそんなこと……」
分かりやすく取り乱す和加代の様子がおかしく、紬はまた笑い声を上げる。
隣から不貞腐れたように文句を言う和加代の声が聞こえてきたが、無視して紬は自身の手に目を落とした。
もう何度も彼に手を引かれた。差し伸べられる度に紬はその手を取ってきたのである。
「分かるのよ。好きな人を思い浮かべると全部がどうでも良くなる。ただその人と一緒にいるだけでいい」
「紬さんもなんですか?」
零れ落ちそうなほどに円な瞳で見つめられた紬は、自嘲するように乾いた笑みを落とした。



