根暗な貴方は私の光

 近い未来、死んでしまうかもしれない彼を愛さないようにこれまで過ごしてきたが、人間の想いというものはうんざりするほど正直だ。
 素直すぎるがゆえに、抵抗することなくその気持ちに気づいてしまった。
 そしてこうしている間にも頭の中で幸せという四文字が浮かんでは消える。ただただ、今は幸せだった。
 ずっと伝えたかった、ずっと前からこうしたいと願っていた。ようやく、傍に寄ることができたのだ。

「清弘、好き」
「俺も好きです。ずっと前から好きでした」

 ずっと前から好きだった。彼のその言葉が紬の胸を幸福感で満たしていく。
 紬が恋い慕っていたように、江波方もまた紬を慕っていた。恐れずとももっと前に想いを伝えることはできたのである。
 けれど、時機がどうであれこうして互いの気持ちが同じであると知った。
 ならばもう恐れるものは何もない。たとえ愛した人がお国のために命を捧げる覚悟を持っているとしても、紬は精一杯愛すると決めた。
 最初で最後の恋なのだから。

「ああ、幸せだなあ……。ずっと、こうしたかったの」

 遠い昔、紬の一番の親友は望まぬ婚約をした。自分にも恋い慕う相手くらいいると言っておきながら、親が決めた相手と結ばれることを受け入れていた。 
 それでも親友は幸せになると誓った。たとえ望まぬ想いであったとしても、運命に抗えないのなら従って幸せになる方法を探す。
 死ぬまで恋なんてものとは無縁だと思っていた。しかし、今こうして恋い慕う相手の隣りにいる。

「俺もずっと貴方に触れたかった」

 そう言って江波方は紬の頬を優しく撫でる。常に寝不足なのか隈が浮かんだ目元は決していいと言える状態ではないのに、紬にとってはそんな目すら愛おしい。
 いつの日か、彼の目を死んだ魚の眼だと言った人がいた。彼自身もその話に苦笑を零して頷いていた。
 けれど、紬にとってはそんな目が愛おしかったのだ。ずっと見ていたいと思っていた。
 彼の瞳に映るのが自分一人であればいいと何度願ったことだろう。

「一緒に明日を迎えましょう」
「ええ、必ず」

 吹き抜けの窓の外から差し込んだ月明かりが二人を淡く照らす。
 その月明かりの心地良さに身を委ね、二人は静かに身を寄せ合った。