根暗な貴方は私の光

 和加代と別れて紬が向かったのは先程皆で集まった教室だった。
 救急箱を胸元に抱き寄せ、扉の前に立つと大きく息を吸う。微かな炭と灰の匂いを感じ、表情を歪めたのは言うまでもない。
 教室の中に入ると、いたのはまさかの蕗と江波方の二人だけであった。
 わざと足音を立てながら二人の傍に寄ると、気が付いたらしい蕗が振り返る。遅れて江波方も紬に向き直った。

「江波方さん、手当します」

 救急箱を持って教室に入ってきた紬は、暗い表情を浮かべて江波方の前に膝を折った。
 ここまで逃げている途中でできた江波方の頬の切り傷を見て紬は顔を顰める。自分にできた傷ではないのに自分のことのように傷つくのは、彼女の彼に対する想いからだろう。
 消毒液を含んだ綿を傷口に押し当てると、微かに江波方の表情が歪んだ。その度に紬の胸もぎゅっと締め付けられる。

「終わりましたよ」
「ありがとうございます」

 ようやく話し出したかと思えばそんな堅苦しい言葉を交わすだけで、それから再び二人の間には沈黙が流れる。
 悲しげな表情を浮かべて救急箱を閉めた紬は、ちらりと江波方の方へ視線を移した。
 見られていると気づいていない彼は、頬に貼られた絆創膏が気になるのか指先で触っている。
 
(何かしら……ずっと、胸の辺りが気持ち悪い)

 ここへ来る前から感じていた胸の気持ち悪さが倍になり今になって襲い掛かってくる。
 不快なようでいて不快ではない得体の知れない不思議なもどかしさが紬の心を掻き立てていく。
 このままでは冷静でいられないと判断した紬は、救急箱を抱き抱えると江波方に背を向けた。

「安静にしていてくださいね」

 そう言って立ち上がろうとした紬の腕を突然江波方が掴んだ。さほど強くはないが、突然のことに紬は勢いよく振り返る。
 
「どうしたんですか」

 不思議に思って紬は俯いている江波方を見ながら尋ねた。彼がこんな勢いに任せた行動を取るような人には見えなかったため、その驚きは余計に大きい。
 しばらく江波方は俯いて何も言わなかった。しかし何か納得したのか、それとも決意したのか顔を上げると曇りのない瞳を紬に向ける。