根暗な貴方は私の光

 和加代の後を付いて別の教室に入ると、想像以上の数の怪我人がぐったりと床に伏せていた。
 目の前の光景に戸惑いつつも和加代から受け取った救急箱を怪我人の横に置き、手際よく怪我の手当を進めていく。
 教室の中には和加代以外の女学生の姿も見られた。

「あの、手伝っていただいてありがとうございます」
「感謝されるようなことじゃないわ。私だって、貴方と一緒に怪我人の手当をしないと」

 やけに意味を含んだ物言いをする紬を和加代は不思議そうに見つめた。
 彼女には言っていなかったか。いや、彼女だけでなく他の皆にもこの過去は打ち明けたことがない。

「私はね、元々この学校に通っていたの」

 ずっと昔に蓋をした過去。記憶から薄れるくらい昔のことであるから、語りながらも何処か他人事のように感じた。
 紬がそう打ち明けると和加代の瞳が大きく見開かれる。ずっと前から紬は和加代のことを愛らしいと思っていた。
 恋する乙女特有の純粋さが和加代からは感じられる。かつて、紬の親友が見せた屈託のない笑顔とよく似た笑顔を和加代も時折見せていたのだ。

「わけあってやめたんだけどね。この学校の制服が本当に可愛くって可愛くって」

 いつかの紬は可愛いものが大好きだった。学校へ行く日は必ず髪を結い上げ、母がくれた髪飾りを着けてめかし込んだ。
 この女学校に通っていたのは制服が可愛かったからという理由だけである。幼い頃にこの学校の制服を着ている生徒を見て、紬も絶対に通いたいと思ったのだ。

「楽しかったなあ。何処を見ても可愛い子ばかりで、親友と呼べる友達もいて」
「そのお友達とは、もう会っていないんですか?」

 和加代も柳凪によく出入りしていた常連客であるため、紬とは毎日のように顔を合わせていた。
 そんな彼女であるから、常に店にいて外出をしている様子のない紬のことを見ていたのだろう。
 いつ訪れても店にいるのだから誰かに会いに店を空けることなどなかったのである。

「……ええ。もう何年も前に絶交した」
「ぜ、絶交……?」

 信じられないと言った様子の和加代から目を逸らし、紬は救急箱の蓋を閉じる。
 まるで自分自身の心を閉ざすような、そんな乱暴さが手つきから溢れ出していた。