根暗な貴方は私の光

 こんな屈辱など感じるのは紬だけである。表に出したところで誰にも理解されないのは明白だった。

「皆さん、ご無事だったんですね」
「えっ、小瀧さん?」

 一人鬱々と黒い廊下に視線を落としていると、あろうことか小瀧の声が聞こえた。
 紬は顔を上げて声が聞こえた方向へと視線を向ける。すぐ隣の教室の入口から、所々破れた軍服を身に纏い、頬を煤で汚した小瀧が目を見開いて立っていた。

「怪我はなさそうですね。一先ず、入って休みましょう」

 安心たように微笑んだ小瀧は皆に背を向けると、教室の中に入るよう手で指し示す。
 小瀧に促され、元は教室だった空間の中に足を踏み入れると空いている端に皆は腰を下ろした。

「芝さんは? まだ来ていなんですか?」
「彼なら基地にいると連絡がありました。それより、どうして鏡子さんはご一緒ではないんです?」

 半ば尋問するように、小瀧は一段階低くした声で仁武に問いかける。問われた仁武は小瀧から目を逸らし、ぐっと奥歯を噛んで黙り込んだ。
 何も言えないでいる仁武の代わりに、膝を抱いて座った蕗がぽつりと独り言のように言う。

「死にました」
「えっ……?」
「私を庇って、瓦礫の下敷きになりました。多分、即死です」
「そん、な……」

 和加代はカタカタと震える手で口元を置い、小瀧は硬い表情で目を逸らした。
 彼らの話を静かに聞いていた紬も同じような反応をする。改めて少し前に起こった出来事を思い返すとあまりにも信じ難いことであった。
 もし、あの時蕗の元へ飛び出していく鏡子を止められていたら。
 もし、蕗が使いに出る時に了承などせず反対していれば。
 全てが全て紬のせいではないとは言え、何処かで自分が違う行動を取っていれば違う未来があったかもしれない。
 紬は一人後悔に苛まれ、そう考えずにはいられなかった。
 何とも言えない暗い雰囲気が漂い始め、皆の間に静寂が流れた。

「……私、皆さんの手当に回ってきます」

 逃げるように立ち上がった和加代につられて紬も立ち上がる。何故だか今すぐにでもこの場から逃げ出したかった。

「私も手伝うわ」
「えっ、でも……」
「いいのよ。やらせて」

 戸惑う和加代に無理を言って紬も教室を出る。逃げたいというのが本心ではあったが、それ以外にも彼女が和加代を手伝おうと思ったのには理由があった。