江波方がどれだけ強く抱きしめても、紬の恐怖に支配された身体の震えは止まらない。
この状況を察した江波方と仁武は顔を見合わせてから、怯える紬と蕗の方へと視線を動かした。
煤だらけで汚れてはいるが、怪我が見当たらない蕗。同じく目立った傷はない紬。けれど、恐怖に身体を蝕まれ二人はその場から動けないでいた。
この状況と紬の発言から考えられることは一つしか無いだろう。
「……まだ、間に合う。間に合う」
「仁武……?」
鏡子が下敷きになった瓦礫を見つめた仁武は何度かそう呟いた。蕗だけでなく紬にもその声が届いていた。
紬は江波方の胸の中に埋めていた顔を上げる。視線の先では瓦礫から目を離すことなく仁武が立ち上がり、一歩瓦礫の方へと踏み出そうとしていた。
すぐに彼が何をしようとしているのか察した蕗は、立ち上がって彼の腕を掴む。しかし蕗の非力さでは、腕を掴む程度だと軍人である彼には敵わない。
何もできず動けないでいた紬をよそに、蕗は仁武の身体に抱き付いて彼の動きを封じようとしていた。
「やめて」
「……なんで止めるんだよ」
「無駄だからだよ。もう、無理なんだよ」
「まだ何もしてないくせに……。まだ、間に合うかもしれないだろ」
二人の淡々とした遣り取りが紬の鼓膜を揺らす。紬は仁武と同じ思いであったが、どうしても蕗の発言に納得してしまった。
もう無理なのだ。何をしても無駄。燃え上がる柱の下にいる鏡子を助けることはできない。
このまま無惨に見殺しにすることしか紬達にはできなかった。
「鏡子さんは死んだの! 私を庇ったせいで瓦礫の下敷きになった。私のせいで死んだの!」
蕗の叫び声が辺りの空気を震わせる。紬は思わず息を呑んで泣き叫ぶ蕗を見た。
初めて蕗が感情を爆発させて何かを叫んでいる。昔から感情をあまり表に出さず、遠慮がちだったあの蕗が。
「死んじゃった人のために自分が傷つくようなことをしないでよ。もう、やめてよ……」
「なんで、なんでだよ。蕗がそんな事を言ったら、俺はどうしたら……」
「早く気づいてよ! こんなこと無駄だって、何も意味がないって気づいてよ!」
何故だろう。どうして今まで自分は当たり前のように受け入れていたのだろう。
人を殺し、人から自由を奪い、人から幸せを奪う戦争に一体何の意味があるのだろうか。
この状況を察した江波方と仁武は顔を見合わせてから、怯える紬と蕗の方へと視線を動かした。
煤だらけで汚れてはいるが、怪我が見当たらない蕗。同じく目立った傷はない紬。けれど、恐怖に身体を蝕まれ二人はその場から動けないでいた。
この状況と紬の発言から考えられることは一つしか無いだろう。
「……まだ、間に合う。間に合う」
「仁武……?」
鏡子が下敷きになった瓦礫を見つめた仁武は何度かそう呟いた。蕗だけでなく紬にもその声が届いていた。
紬は江波方の胸の中に埋めていた顔を上げる。視線の先では瓦礫から目を離すことなく仁武が立ち上がり、一歩瓦礫の方へと踏み出そうとしていた。
すぐに彼が何をしようとしているのか察した蕗は、立ち上がって彼の腕を掴む。しかし蕗の非力さでは、腕を掴む程度だと軍人である彼には敵わない。
何もできず動けないでいた紬をよそに、蕗は仁武の身体に抱き付いて彼の動きを封じようとしていた。
「やめて」
「……なんで止めるんだよ」
「無駄だからだよ。もう、無理なんだよ」
「まだ何もしてないくせに……。まだ、間に合うかもしれないだろ」
二人の淡々とした遣り取りが紬の鼓膜を揺らす。紬は仁武と同じ思いであったが、どうしても蕗の発言に納得してしまった。
もう無理なのだ。何をしても無駄。燃え上がる柱の下にいる鏡子を助けることはできない。
このまま無惨に見殺しにすることしか紬達にはできなかった。
「鏡子さんは死んだの! 私を庇ったせいで瓦礫の下敷きになった。私のせいで死んだの!」
蕗の叫び声が辺りの空気を震わせる。紬は思わず息を呑んで泣き叫ぶ蕗を見た。
初めて蕗が感情を爆発させて何かを叫んでいる。昔から感情をあまり表に出さず、遠慮がちだったあの蕗が。
「死んじゃった人のために自分が傷つくようなことをしないでよ。もう、やめてよ……」
「なんで、なんでだよ。蕗がそんな事を言ったら、俺はどうしたら……」
「早く気づいてよ! こんなこと無駄だって、何も意味がないって気づいてよ!」
何故だろう。どうして今まで自分は当たり前のように受け入れていたのだろう。
人を殺し、人から自由を奪い、人から幸せを奪う戦争に一体何の意味があるのだろうか。



