根暗な貴方は私の光

 蕗と仁武を追いかけて行った江波方に店に残るように言いつけられた紬は、不安に押し潰され店の端に座り込んだ。
 膝を抱き抱え蹲ると余計に不安が押し寄せてくる。次から次へと浮かんでくる考えを振り払うように頭を振るが不安は拭えない。
 店を出る前に語った江波方の言葉がいつまでも離れなかった。

『俺の弟が住んでいるであろう家だったんです』

 その言葉が何を言い表しているのか今の紬では分からない。
 意味の分からない状況に独り取り残された紬にとって、この時間が何よりも苦痛であった。

「……樒の毒、弟の家に樒……毒撒きの疫病神………もしかして」

 その時、紬の中で何かが線と線で繋がった。ずっと感じていた嫌な予感がはっきりとした形を成していく。

「江波方さんの弟さんが、犯人ってこと……?」

 少し前、何気なく江波方と二人で話していると植物の話に発展したことがあった。
 昔から植物鑑賞が好きだった紬はそれなりに植物に対する知識があり、学生だった頃は自分で栽培もしていた。
 自身の私物である植物の図鑑を開いて江波方に教えている時に偶然だが樒の話にも触れたのだ。
 根も葉も実も人間にとって毒の植物。少量でも摂取すれば呼吸困難等に陥り、最悪の場合命を落とすこともある危険な植物だ。
 何故、彼と樒の話に進んだのかは彼が異様に図鑑を覗き込んで樒を気にしていたからである。

「気づいていたのね……」

 二人でその話をした頃には、とうに毒撒きの疫病神の噂が町に広まっている頃であった。
 江波方達が所属する軍の中にもその被害者がいたらしく、樒の読による殺害が判明していたことから彼は樒を気にしていたのだろう。
 けれど、その時点で弟の存在を確認していたかは定かではない。

「後で教えてもらわないと。何があったのか、全部……」

 ぎゅっと膝を抱える手に力を込める。皮膚が赤くなるくらい強く抱え寄せたのに大した痛みも感じなかった。
 独りで考え込んでいると突然店の外が騒がしくなった。紬は顔を上げ立ち上がる。
 何事かと思って外に出ると涙で顔をグシャグシャにした蕗が紬の胸元に飛び込んできた。

「うわあ! 蕗ちゃん? 何があったの?」
「……友里恵、さんが………」

 泣きながら震える声で蕗は紬に訴えかける。蕗の訴えを聞き取った紬は先程から彼女が気にしている背後に目を向けた。

「え……?」

 そこにいたのはぐったりとした様子で江波方の腕の中で目を閉じている友里恵だった。