店を出てから独り寂しく閑散とした町中を歩く。紬の腕の中には鏡子に押し付けられた包が抱えられている。
「本当に、何だってこんな高価な物」
立ち止まって抱えている包を睨みつける。この中に入っているのは、到底紬では手が出せないような代物ばかりだ。そんな物を手放そうとしている鏡子の心境が未だに理解できなかった。
「何が入っているんです?」
「わあ!」
完全に一人の世界に耽っていたため、江波方が近づいてきていたことに気が付かなかった。
情けない声が辺りに響いて反響する。想像以上に大きな声が出て慌てて口元を手で覆ったが、恐る恐る伺った江波方の様子は特に気にしていないようである。
「びっくりした……。これは、鏡子の私物らしいんですけど。流石に高価過ぎて触れることすら拒まれると言うか」
包の中には、鮮やかな粧飾が施された髪飾りや櫛が幾つか入っている。どれも精巧な作りをしていて、素人の目から見ても決して安物ではないと感じ取れた。
「……言い争い、していましたよね。俺が入るべきことではないんですけど、何かあったんですか?」
時機悪く鏡子と言い争っているところを江波方に見られてしまった紬は、情けなさに押し潰されそうだった。
このまま何処か遠くに行って穴の中に閉じ籠もりたい。ただでさえ誰かに見られただけでも精神的に来るものがあるのに、あろうことか江波方に見られてしまったことが紬には屈辱であった。
しかし、江波方はそんな紬のことを何も気にした様子を見せない。何があったのかと尋ねるのも、紬の身を案じてのことである。
決して感情をむき出しにしていた紬が滑稽だったからではない。
「大して歳が離れているわけじゃないのに、あの子はすぐ私達を子供扱いする。私はね、鏡子に甘えていたんだと思う。毎日同じことを繰り返して生きていた私を雇ってくれて、違う世界を見せてくれた。私にとって鏡子は命の恩人なの。でも、だからかな。自分のことを蔑ろにして他人を助けようとする彼女の姿勢が、どうしても許せないの」
町中を歩きながら、紬はぽつりぽつりと誰にも打ち明けたことのない本心を口にする。
言葉にしていくにつれその想いは募り、もはや本心なのかも分からない。彼女に対する想い、感謝や妬みの感情がぐちゃぐちゃになって頭を満たしていく。
江波方が何も言わず話を聞いてくれるから本心が止め処なく溢れ出た。
「私はいいから、私は大丈夫だからって、いつも自分のことを後回しにするのよ。私はただ一言、一緒にっていう言葉を聞きたいだけ」
ようやく気が付いた自分自身の本心。初めて鏡子に出会い、彼女に拾われたあの日からずっと心の奥底で蓋をしていた本心。
ずっと誰かに聞いてほしかった。ただ静かに聞き入れて、受け止めてほしかった。
「私は、あの子に何もしてあげられないのかな……」
そう問うたとて、江波方に何かできるわけではないと紬は理解している。それでも口をついて出る本心は止められなかった。
他人である江波方にしか吐き出せないのである。
「本当に、何だってこんな高価な物」
立ち止まって抱えている包を睨みつける。この中に入っているのは、到底紬では手が出せないような代物ばかりだ。そんな物を手放そうとしている鏡子の心境が未だに理解できなかった。
「何が入っているんです?」
「わあ!」
完全に一人の世界に耽っていたため、江波方が近づいてきていたことに気が付かなかった。
情けない声が辺りに響いて反響する。想像以上に大きな声が出て慌てて口元を手で覆ったが、恐る恐る伺った江波方の様子は特に気にしていないようである。
「びっくりした……。これは、鏡子の私物らしいんですけど。流石に高価過ぎて触れることすら拒まれると言うか」
包の中には、鮮やかな粧飾が施された髪飾りや櫛が幾つか入っている。どれも精巧な作りをしていて、素人の目から見ても決して安物ではないと感じ取れた。
「……言い争い、していましたよね。俺が入るべきことではないんですけど、何かあったんですか?」
時機悪く鏡子と言い争っているところを江波方に見られてしまった紬は、情けなさに押し潰されそうだった。
このまま何処か遠くに行って穴の中に閉じ籠もりたい。ただでさえ誰かに見られただけでも精神的に来るものがあるのに、あろうことか江波方に見られてしまったことが紬には屈辱であった。
しかし、江波方はそんな紬のことを何も気にした様子を見せない。何があったのかと尋ねるのも、紬の身を案じてのことである。
決して感情をむき出しにしていた紬が滑稽だったからではない。
「大して歳が離れているわけじゃないのに、あの子はすぐ私達を子供扱いする。私はね、鏡子に甘えていたんだと思う。毎日同じことを繰り返して生きていた私を雇ってくれて、違う世界を見せてくれた。私にとって鏡子は命の恩人なの。でも、だからかな。自分のことを蔑ろにして他人を助けようとする彼女の姿勢が、どうしても許せないの」
町中を歩きながら、紬はぽつりぽつりと誰にも打ち明けたことのない本心を口にする。
言葉にしていくにつれその想いは募り、もはや本心なのかも分からない。彼女に対する想い、感謝や妬みの感情がぐちゃぐちゃになって頭を満たしていく。
江波方が何も言わず話を聞いてくれるから本心が止め処なく溢れ出た。
「私はいいから、私は大丈夫だからって、いつも自分のことを後回しにするのよ。私はただ一言、一緒にっていう言葉を聞きたいだけ」
ようやく気が付いた自分自身の本心。初めて鏡子に出会い、彼女に拾われたあの日からずっと心の奥底で蓋をしていた本心。
ずっと誰かに聞いてほしかった。ただ静かに聞き入れて、受け止めてほしかった。
「私は、あの子に何もしてあげられないのかな……」
そう問うたとて、江波方に何かできるわけではないと紬は理解している。それでも口をついて出る本心は止められなかった。
他人である江波方にしか吐き出せないのである。



