「あら、芝さんではないですか。思っていたよりも早く終わったんですね。てっきり来ないものかと」
「何、気合で終わらせてきたさ。ここへ来ないと一日が始まらん」
「ふふ、嬉しいことを言ってくれますね」
鏡子の揶揄いなどものともせず、上手く受け流せるのはこの男くらいだろう。
紬は鏡子と芝の互いに揶揄い合う会話に苦笑を零しながら聞き入った。彼らの話は頭一つ飛び抜けていて上手く馴染めない。
揶揄われても簡単に笑いへと変える。それでも今では彼によるお巫山戯がなければ、一日が始まらないと言っても過言ではなかった。
「す、すみませーん……。遅れましたぁ」
次いで顔を覗かせたのは、芝の明るさと相対した根暗な男である。背丈は芝と並ぶと頭一つ小さく、猫背であるがゆえに余計に小さく見える。芝の体格が良いだけのようにも感じるが、小瀧と並んでもその差は歴然である。
男の根暗さは言葉からも感じられ、芝の背後から負の雰囲気すら漂っている。
わざわざ走ってきたのか息を切らした江波方が店の入口に立っていた。
「江波方、また寝坊か。昨晩も夜更かししていたのだろう」
「本って読み出すと止まらなくてぇ」
芝に半ば引き摺られつようにして彼も席に着き、いつの間にか大人数の団欒の場ができていた。
客足が減り、彼ら以外の客がいない間はこうして何気ない話をする。突然彼らが店に訪れてからこうして皆で集まるのが日課と鳴っていた。今では皆の楽しみの一つである。
「しかし江波方、お前はもう少し風柳を見習え。年下である風柳の方がよっぽどしっかりしているぞ」
「いやぁ、そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、いつも無理矢理叩き起こしてますよね」
「お前はうちでも若造なんだから早起きをして損はないだろう。寝付きも寝起きも良い今だからこそ時間を大切にするんだ」
「だからって夜中の三時に起こす奴がいますか! 夜中の! 三時ですよ! 時間を大切にするしない以前に、もっと寝かせてください!」
珍しく声を荒げる仁武の悲痛な叫びが店内に響き渡るが、芝はそんな彼の願いを聞く気はないらしい。笑い声を上げながら無理矢理話を終わらせた。
芝の言う通り、仁武と同い年の蕗を除けば彼はこの中でも一番の若輩者に当たる。子供扱いされるのも無理はない。
腑に落ちていない様子の仁武はそれ以上反論することはなくても、ぶつぶつと怒りを小言にしていた。



