根暗な貴方は私の光

 近頃は一気に冷え込み、賑やかだった店も鏡子達の何気ない雑談が聞こえるほどに静かだ。
 客足が減った柳凪は、行く宛のない紬にとって暇を潰す屋根のある場所という認識なりつつあった。今日も今日とて店と住居の境に座り込み火鉢を抱えて寒さに耐えていた。
 これほどの寒さでは外に出る気力も起こらない。昔ながらの火鉢を陣取ることに成功した紬は、蕗に横目で睨みつけられても知らないフリをする。

「ごめんください。……あっ、蕗」
「仁武」

 それまで一人だけ暖を取っている紬を妬ましそうに見ていた蕗であるが、店にやって来た仁武に呼ばれるなり笑みを浮かべて立ち上がった。
 小さく手招きをする仁武は聞かずとも蕗に用があって柳凪に来たのだろう。
 手を擦り合わせながら仁武の元へと向かう蕗もその様子を伺う紬も不思議に思うばかりである。

「今、時間ある?」
「うん、あると思うよ」

 蕗は最近よく話すようになった。十年前の寡黙さが今では感じられないほど表情も豊かになっている。
 店内を見渡す蕗はだらけた様子の従業員達を見て苦笑を零した。
 正午がすぎれば客足が減るのはいつものこと。町中に出ても人気がないのだから、今から客が来ることもないだろう。

「今から出られたりしないかな。行きたい所があるんだけど」
「えっ、行きたい所? 私と? 今から?」

 蕗の素っ頓狂な声に紬は込み上げてきた笑いを必死に堪える。
 一瞬助けを乞うような視線を拭きに向けられたが、どう考えても仁武が話しかけているのは紬ではなく蕗である。
 
「そ、そうだけど。やっぱり都合が悪かったりするかな?」

 残念そうに肩を竦める仁武の姿が目に入った蕗は分かりやすく戸惑いを見せる。ますます紬は声を上げて笑いそうになり二人に気づかれないよう笑いを押し殺した。
 行っても良いものかと心配げに蕗に視線を向けられ、笑いを沈めた紬は行ってきたらいいという意を込めて一度頷いた。

「ううん、大丈夫」
「なら、行こう」

 仁武が蕗を連れて何処に行こうとしているのかなど紬に分かるはずもない。
 せめて蕗を危険な目に合わせるなという想いを込めて二人を見送った。