根暗な貴方は私の光

 友里恵が茶菓子の仕込みをしている中、紬は黙々と箒で塵を集め続けた。誰とも話さず淡々とこなせる作業は心を落ち着かせる。
 もうずっと何も考えず掃き掃除をしていたかった。しかし、時間というものは無情に流れるもの。

「すみません。やっていますか?」
「ええ。いらっしゃいませ、こちらのお席へどうぞ」

 若い男女の二人組が入口近くの掃除をしていた紬を見て尋ねる。普段は開店時間に鳴っても客は来ないためゆっくりと準備していたのだが、この日は珍しく回転してすぐに客が入ってきた。
 慌てて箒を壁に立て掛けた紬は二人組を席へと案内する。それからというもの、続々と客足は増え続けこの日は大盛況だった。

「紬ー。ちょっと蕗ちゃんの様子を見てきてもらえる?」
「私が? 別にいいけど」

 注文に追われ菓子の準備していた鏡子が思い出したように紬にそう頼んだ。
 ちょうど客の案内が済んだところであったため手は空いている。断る理由はなかった。
 持っていたお盆を台所の空いている場所に放置し、靴を脱いで住居へと上がる。少し前まで自身が暮らしていた部屋の前に立つと、古い扉を数回叩いた。
 少し待つ。すると部屋の中から物音が聞こえ、少女が扉を開けて恐る恐る顔を覗かせた。

「着替え終わった?」
「お待たせしてしまってすみません。紬さん」

 昨日見たときとは見違えるほどに少女の姿は目を向けられるものになっていた。
 ボサボサだった髪は鏡子が整えたのか癖っ毛だが爆発はしていない。この店の特徴である前掛けも自分で着けられているし、何より昨日よりも言葉を発するようになっていた。

「焦らなくていいのよ。ゆっくり慣れていけばいいんだから」

 少し屈んで蕗の小さな頭の上に手を乗せると、ゆっくりと撫でながらそう言った。
 今でも彼女の存在は何処か浮いていて、紬自身受け入れきれてはいない。しかし、恩人が家族だというのだから紬もこの小さな女の子を家族だと思うことにした。
 蕗の背中を押しながら廊下を歩き、店の中に降り立つ。入口付近に立っていた友里恵は、従業員らしい格好をした蕗を見て目を輝かせた。

「あら、似合ってるじゃない。様になってるわね」
 
 長い黒髪を揺らして友里恵は蕗に笑い掛けた。

「それじゃあ、練習も兼ねて始めましょうか」
「はい、よろしくお願いします」

 他人行儀な蕗の言葉を聞いた紬と友里恵は、思わず互いの顔を見合わせて苦笑を零した。
 この小さな少女が砕けた様子で接してくれるようになるまで、もう少しばかり時間が掛かりそうである。