志筑の身体が重く伸し掛かる。重くて熱くて苦しい。不快で、気持ち悪くて、今すぐにでも離れたい。
いつの日か、こうして志筑に抱き締められたことがった。頭の上には美しい星空が広がっていて、抱き締められたことに気がついた瞬間に幸福感が胸を満たした。
あの頃は幸せだった。ただ自由になれた気がして、何をするにも楽しくて。
何度も願ったのに、何度もこうして抱き締められたいと思ったのに。骨が折れるくらいに強く抱き締めてほしかったのに。
どうしてこんなにも身体が拒絶しているんだ。
「何をしてんや! はよ離れ!」
新汰の怒号が蘭のぼんやりとしていた意識を鮮明にした。ゆっくりと動かしていた視線は、突然大きく後方へと引っ張られる。
蘭の身体は、先程拘束してきた気怠げな男によって志筑から引き剥がされた。抵抗する気力も体力もなくて、ただされるがままに拘束される。
両脇を抑え付けられて開けた目の前には、蹲る志筑とそんな彼の傍に駆け寄る新汰がいる。
志筑は苦しげな表情を長い前髪で隠し、左肩を抑えていた。新汰もハンカチのようなもので志筑の左肩を抑えている。
何、どういうこと。なんで、志筑はそんなに苦しそうにしているの? なんで、血を流しているの?
ゴトン。
視界の端で何か重い鉄の塊が地面に落ちた。動かしにくい首を無理矢理動かしてその方向に視線を向ければ、血に塗れた自身の右手と地面に転がる拳銃がある。
まただ、また後頭部を陶器でぶん殴られたような衝撃が襲った。
理解を拒んでいた脳が徐々に現状を理解し始める。本当に起こった。自分が言った通り、悲劇が。
「い、や……」
嘘だ。違う、違う。
「そ、んな……」
嘘だ。違う、そんなの違う。
「違う、そんな……つもりじゃ………」
そんなつもりじゃなかった。こんなことになるんて思っていなかったんだ。
「よく見とけ。お前はあいつと同じだ」
「は……?」
「お前が拳銃を握った瞬間、セーフティーを外した瞬間、俺らに拳銃を向けた瞬間、お前は非道に進んだんだよ」
目付きの悪い軽蔑を滲ませた男の視線が降り掛かる。その瞳を見ていると心臓がドクン、ドクンと不規則に脈打ち始める。
私が、志筑を撃ったの?
私が、志筑を傷つけたの?
私が、悲劇を起こしたの?
私のせいで、私のせいで、私のせいで。
「嫌、嫌! 違う、違うの! 違うの!」
「ら、ん。蘭! おい、蘭!」
「そんなつもりじゃあ、そんなつもりじゃなかったの! 私は、私は!」
もう、何も分からない。何も分かりたくない。
やめて、やめてよ。もう、その名前を口にしないで。人を傷つけた人間の名前をこれ以上あんたのその声で口にしないで。



