荒廃した世界で、君と非道を歩む

 目の前が歪んで身動きが取れない。顔だけで振り返れば、先程蘭達に拳銃を向けていた気怠げな男が蘭の身体を抑え付けていた。
 抵抗しても抵抗しても男は表情を変えず、蘭の身体を地面と一体化させるかの如く離そうとしない。

「さっさとそれを離せ。セーフティが掛かってんだから引き金を引いたところで撃てやしない」
「セーフティー?」
「やっぱりな。お前は十七年間まともな教育を受けること無くここまで生きてきた。世間知らずの親不孝者。そこにいる男が何をしたのか分かっているくせに、どうしてそこまであいつに固執する。何がお前をそんな愚か者にした」
「愚か者なんかじゃない! 志筑は私を守ってくれただけ、私を独りにしないために傍にいてくれたの!」

 暴れながらそう叫べば、蘭の身体を抑え付ける男の表情が険しいものへと変わる。蘭の言葉が理解できないとでも言いたげな、目の前の存在を軽蔑するような目。
 その目を向けられることが腹立たしくて、見ていたくなくて握っていた拳銃に視線を移した。
 色々なバーやら引き金やらがあり、どれが男の言うセーフティーなのか分からない。適当に弄ってみればどれか当たるだろうとあるだけの突起物に触れた。

 カチッ。

 何かが音を立てて外れる。心做しか先程よりも引き金が軽くなったように感じた。

(も、もしかして)

 その時、身体を抑え付けていた男の重みが減った。見れば、顔が青ざめた男が蘭の手元を睨めつけていた。

「やめろ」

 自由になった蘭は寝そべっていた状態から脱し、その場に膝を付いた。そして握っている拳銃を目の前の男に向ける。
 引き金に指を掛けて真っ直ぐと男を銃口で捕らえた。このまま引き金を引けば撃てる、銃に対する知識などないのに何故だかそう確信していた。

「やめろ、やめろって! 早く下ろせと────」
「駄目だ、蘭!」

 志筑の叫び声がすぐ耳元で聞こえた。視界が横にズレて、目の前が真っ黒い布で包まれる。

 バンッ。

 辺りにけたたましい銃声が響いた。ざあっと木々が騒ぎ立て、鳥達が鳴き叫びながら飛び立っていく。波が暴れて、崖下に当たって弾ける。
 硝煙の匂いに混ざって鉄錆の匂いが鼻腔を掠めた。自身の右手を見れば、拳銃の銃口が黒い何かに埋もれている。
 ゆっくりと霧が掛かっていた視界が晴れてきた。遮断されていた音という音が鼓膜を揺らし、視界には灰色の空が広がっている。

「ってぇ……」

 また、耳元で志筑の声が聞こえた。苦しそうで、辛そうで、無理矢理絞り出したような声。
 顔を上げれば、苦しげな志筑の顔があった。徐々に青ざめていくその顔は、無理に笑っているようで引き攣っている。
 なんで、なんで志筑がここにいるんだ。なんで、拳銃が志筑に向けられているんだ。なんで、志筑は苦しそうにいているんだ。

 なんで、なんで、なんで、なんで、なんで。