荒廃した世界で、君と非道を歩む

 だから、ここが理想の死に場所だ。だって、目の前に志筑がいる。志筑がいることが何よりも幸福で、そして後ろめたさを消してくれるのだ。

「早く、早く私を殺して────」
「いたぞ!」

 その時、蘭の懇願する声を掻き消すほどの男の怒号が響き渡った。突然の大声に蘭は驚いて志筑の身体に抱き付く。志筑もまた無意識に蘭を庇うようにして抱き寄せた。
 目の前の獣道の先から誰から近づいてくる。一人ではない、二人、いや複数人の革靴か何か硬い足音が近づいてきている。
 足音か近づき大きくなるにつれて二人の心音も大きく激しいものになっていった。

「警視庁捜査一課、東賢臣(あずまけんしん)だ。青天目志筑、殺人と遺体遺棄、及び誘拐の容疑で逮捕する!」

 拳銃を構えた強面の男が獣道から飛び出してくる。その後に続くようにして同じく拳銃を持った男が二人。

「え……。なんで、あんたが………」

 蘭には突然現れた拳銃を持った三人組などどうでも良かった。それよりも、三人の後ろから遅れて現れた男に向けた視線が釘付けになって逸らせない。
 後から現れた人物は咥えている煙草から煙をくゆらせ、拳銃を構えている一番前にいた男の前に立ち塞がった。

「新汰……?」
「久しぶり言うには、ちょーっち早いやろうか」

 どういうことだ。何故、如何にも刑事ですといった風貌の男達と新汰が一緒にいるのだ。
 何故、この男たちは新汰に対して警戒心を見せないのだ。と言うか、このスーツを着た男たちは一体誰なのだ。
 警視庁捜査一課? 東賢臣? 一体全体何が起きているのだ。

「会っていきなりで悪いけど、あんたらに逃げ場はあらへん。大人しくお縄につきぃ」
「新汰、てめぇ。どういうつもりだ」
「どういうつもりも何も、死のうとしている自殺志願者を目の前にして止めない奴がおるか」

 自殺志願者? 何それ。私は自殺志願者なの? 自殺、自殺?

 知ったような口ぶりをする新汰に警戒心が募っていく。何を言っているのか理解できないのは、蘭だけでなく志筑も同じである。
 新汰の背後で拳銃を構えていた東と名乗った男は一歩踏み出し、銃口を志筑に真っ直ぐと向けた。

「手を上げてその場に伏せろ。無駄な抵抗は撃たれるだけだ」
「……し、志筑」

 絶望が滲む顔を上げた蘭は、乞い願うように志筑を見上げた。また、昔のように守ってくれると信じて。

「蘭、逃げろ。お前はこんなところでこいつらに捕まるべきじゃない。捕まるのは、俺一人でいい」
「そ、んな。嫌だ、嫌だよ! 一人になりたくない、志筑と一緒にいる。傍にいるって言ったじゃんか!」

 どれだけ叫んでも志筑の顔色は変わらない。ただ目の前に立ち塞がる新汰達を見つめたまま、その琥珀色の瞳を鋭く光らせた。
 不安と焦りに冷静な判断力が鈍っていく。この現状が一体何なのかも理解できない頭で必死に打開策を講じた。
 元から学力なんて無い貧弱な脳をフル回転させて考える。この男達から逃げる方法は、志筑と離れずに済む方法は。

「志筑」
「何だ。早く逃げろって言ってんだろ」
「あんたは何度も私を守ってくれた。私は、あんたと出会わなければよかったなんて思わない、出会ってよかったよ。だから、次は私があんたを守る番」

 そう小さく囁いた蘭は志筑の元から離れると、真っ直ぐと新汰ではなくその背後に立っている東を睨め付けた。
 そして、東めがけて走り出した。