荒廃した世界で、君と非道を歩む

 目の前には灰色の荒ぶる海が広がっている。咥えている煙草から登る煙が海と同化して消えた。

「……はあ、なんでこうなるんやろうか」

 誰にも聞かれることのない独り言が潮風に乗って消えていく。煙草を咥え直しぼんやりと空を見上げると、まるで自分自身の心の中を表しているような曇天が一面に広がっていた。
 何処で間違えたのか、何が間違えであったのかなど誰も正解は知らない。教えてくれる人も共に考えてくれる人も今では遠くに行ってしまった。
 犯罪者を追う側だったはずの自分は刑事をやめて、今では何も考えずのんびりと海を見ている。過去の自分がこの有り様を見れば呆れるに違いないだろう。
 愚かなものだ。自身の大切な部下を裏切ってまで理念に縋ったのだから。

「先輩。本当に、いらしたんですね」

 駅の改札口近くのベンチに座って空を見上げていると、不意に自分の存在を確かめる声が聞こえた。
 声が聞こえた方向に顔を向けるとスーツ姿の男が立っている。かつて新汰が刑事だった頃、バディを組んでいた後輩の東である。

「おお、来たか」
「無駄話はいいですから、早く仕入れたという情報をお聞かせください」
「もちろん、そのために来たんや。あんたらも歩きながら聞いてくれ」

 東の背後で様子を伺っていた二人の男にも声を掛け、新汰は重い腰を上げてベンチから立ち上がる。
 潮風が吹き荒れる海辺を歩きながら新汰は咥えていた煙草を一気に吸い上げた。
 口から吐き出した煙が空に向かって伸び、そのまま曇天に混ざって消える。背後でライターで火を付ける音が聞こえた。首だけを動かして振り返ると、いかにも生意気そうな若い男が咥えている煙草に火を付けている。
 自身の隣を歩いている東がその男の方を見て怪訝な表情を向けているが、新汰はわざわざ叱りつけることもなく前を向いた。

「賢、お前あいつらを追っかけとんやな」
「あいつらとは、連続猟奇殺人鬼と行方不明の少女のことでしょうか」
「せや。まさかお前がこの件に手を出すやなんてな。しっかしまあ、なんでここまで追っかけよう思たんや。そこの二人も、命令されたわけやないやろ」
「別に理由なんてありません。刑事としての理念に従い、罪人は捕まえるべきだと考えているだけのことです」
「罪人、なぁ」

 吸い殻を携帯灰皿に押し込み、ズボンのポケットに仕舞った新汰は海を見つめて立ち止まる。
 突然立ち止まった新汰に習って東達三人もその場に立ち止まった。彼らの髪を潮風が撫で、鼻腔を潮の匂いが貫く。