「今でもあの殺人犯のせいで先輩が失職したと考えているんですか?」
ピンと張り詰めた空気が二人の間に流れる。東は背後に立っている新島の方へは振り返らず、ただ黙って時間が過ぎるを待っていた。
自分自身の理念を否定された気がして何も言えない。いや、何も言いたくないというのが正解だろうか。
「まあ、いいです。今はあの二人を捕まえることに集中しましょうや」
そう新島が言うなりホームに電車の到着を告げるアナウンスが鳴り響く。線路の先から二つの白いライトが近づいてきて、徐々にホーム全体を吹き荒れる風が包み込んだ。
ホームに滑り込んできた電車の扉が開き、圓堂と新島が乗り込んでいく。東は得も言われぬ不快感に表情を歪めながらも二人を追って電車に乗り込んだ。
「この先かなりの駅数ありますけど、何処で降りたんでしょうねぇ」
座席に深く腰掛けた新島が天井を見上げて呟く。だらけていて呆けた新島の物言いに東の怒りに火が灯る。
扉の傍に立っていた東は暗闇が続く窓の外を睨め付け、反射した自身と目を合わせた。
「心配するな。あいつらは終点にいる」
「何故分かるんです? 直接聞いたわけでもないでしょうに」
東の真っ直ぐとした迷いのない言葉を聞いた圓堂は、思ったままの疑問をぶつけた。
腕を組んで窓の外を眺めていた東は横目で圓堂と新島を見ると、もう一度窓に映る自分自身を見つめる。
「直感、と言えば納得はできんか」
「珍しい、あの頑固な東さんがそんな投げやりなことを言うなんて」
「そう言うな新島。お前達だってほとんど直感で動いているではないか。俺だって時には勘に頼る。こういう時は特にな」
納得がいってないらしい新島は天井を見上げたまま「分っかんねぇ」と文句を零した。
それ以上会話が続くことはなく、東は窓に映る自分自身を睨め付けるだけであった。
プルルル、プルルルル。
そんな静寂が流れていた時、誰かの携帯の着信音が辺りに響いた。車内にいるのは東達の三人だけであり、この三人の内の誰かのものであるのは明確である。
「誰ですー。マナーモードにしていないのは」
「すまん、俺だ。はい、東です」
東はジャケットの内ポケットからスマートフォンを取り出すと、通話ボタンを押して耳に当てた。
名前は非通知である。
『お、ちゃんと繋がっとるみたいやな。賢、俺や、外園』
「先輩? どうされたんですか」
『あんたらに報告があってなあ。ちょっと野暮用で外に出とんやけど、いい情報を手に入れたんや。聞きたい?』
「あまりこちらを揶揄うのはやめてください」
『いや、揶揄っとんやない。ほんまにいい情報があんねん。あんたら今地下鉄乗っとるやろ。そのまま終点まで来ぃ。改札口で待っとるから合流して話そうや』
「先輩、何故ですか?」
電話の向こう側にいるであろう新汰にそう問いかけるが、一方的に『ほな、後で』と言われて電話は切れる。
一連の会話を聞いていた圓堂と新島はスマートフォンを下ろす東を不思議そうな眼差しで見ていた。
「このまま終点まで向かうぞ。外園先輩が待っている」
そう言う東は不敵な笑みを浮かべ、目に微かな殺意を滲ませていた。



