完全に油断していた。追われている身であるというのに呑気にショッピングモールにいるのだからそう簡単に逃げないだろうと思っていた。
しかし、今になって街中を全速力で走っているのは、ショッピングモールから逃げ出す殺人鬼と行方不明の少女を圓堂が見つけたからである。
圓堂がショッピングモール内で聞き込みしている場面を偶然目の当たりにしたのだろう。フードコートから走り去っていく黒尽くめの男と緋色の上着を着た少女を圓堂はその目ではっきりと捉えた。
そこからは逃走劇の幕開けである。
無線で圓堂からの報告を受けた東は、新島にも話をつけ二人が向かったであろう地下鉄に向かっていた。
地下鉄の改札口に着いた三人は交通系ICカードを使って改札を抜けると、真っ直ぐと階段を使ってホームへと降り立つ。
三人がホームに足を踏み入れると同時にホームに停まっていた電車はゆっくりと走り出していく。
「ちっ、逃がしたか」
東が睨め付ける先にいたのは、動き出す電車に乗っている黒尽くめの男である。東とその男の視線は一瞬であるが確かに交わった。
そしてほんの一瞬しか見えなかったが、男の脇で丸くなっている赤い子供。恐らく行方不明になっていた十七歳の少女だろう。
「あーあ、行っちゃいましたね。次の電車は十分後か」
「待つしかありません。東さん、一度冷静になってください」
遅れて階段を降りてきた新島の呑気な言葉に怒りを露わにした東を圓堂が慣れた様子で嗜める。
圓堂の言う通り東にできることは次の電車を待つだけであり、それまで何もできない手持ち無沙汰に苦しまなければならないのだった。
もう一度舌打ちをした東は、電車が走り去っていた方向を睨め付けた。
彼ら以外誰もいない地下鉄のホームには何の物音もない。何処かからか聞こえる微かな風の音もほとんど聞こえていないのと同じである。
「一つ、気になっていたんですが」
そんな静寂を打ち破ったのは新島のだらけた声である。三人以外誰もいないことをいいことに新島は東の背後に歩み寄るとそう切り出した。
「何故、東さんはそんなにあの殺人鬼に執着するんですかい?」
「……何故、だと?」
「今では若手だと言うのに多くの犯罪者を捕まえてきたエリートである貴方が、一人の殺人鬼に固執するなど違和感があったんですよ。他の事件に対する視線は淡々としていて冷静沈着、それなのにあの殺人鬼に対する事件の時だけは血相を変えていた。俺にはその理由が理解できないんです」
「わざわざ理解するようなことでもないだろう。お前と違って、俺はどの事件も平等に現場へ赴き解決への糸口を見つける。それ以外のことは考えていない」
「ええ、それは重々承知してます。半端なことが嫌いで妥協など有り得ない東さんですから。でも、やはり第三者として見ていると東さんの先輩とあの殺人犯の子供に対する恨み辛みは異常だ」
薄暗いホームに新島の捲し立てる早口の声が響き渡る。
一歩踏み出した新島は、微かに震える東の背中に向かって問い掛けた。
しかし、今になって街中を全速力で走っているのは、ショッピングモールから逃げ出す殺人鬼と行方不明の少女を圓堂が見つけたからである。
圓堂がショッピングモール内で聞き込みしている場面を偶然目の当たりにしたのだろう。フードコートから走り去っていく黒尽くめの男と緋色の上着を着た少女を圓堂はその目ではっきりと捉えた。
そこからは逃走劇の幕開けである。
無線で圓堂からの報告を受けた東は、新島にも話をつけ二人が向かったであろう地下鉄に向かっていた。
地下鉄の改札口に着いた三人は交通系ICカードを使って改札を抜けると、真っ直ぐと階段を使ってホームへと降り立つ。
三人がホームに足を踏み入れると同時にホームに停まっていた電車はゆっくりと走り出していく。
「ちっ、逃がしたか」
東が睨め付ける先にいたのは、動き出す電車に乗っている黒尽くめの男である。東とその男の視線は一瞬であるが確かに交わった。
そしてほんの一瞬しか見えなかったが、男の脇で丸くなっている赤い子供。恐らく行方不明になっていた十七歳の少女だろう。
「あーあ、行っちゃいましたね。次の電車は十分後か」
「待つしかありません。東さん、一度冷静になってください」
遅れて階段を降りてきた新島の呑気な言葉に怒りを露わにした東を圓堂が慣れた様子で嗜める。
圓堂の言う通り東にできることは次の電車を待つだけであり、それまで何もできない手持ち無沙汰に苦しまなければならないのだった。
もう一度舌打ちをした東は、電車が走り去っていた方向を睨め付けた。
彼ら以外誰もいない地下鉄のホームには何の物音もない。何処かからか聞こえる微かな風の音もほとんど聞こえていないのと同じである。
「一つ、気になっていたんですが」
そんな静寂を打ち破ったのは新島のだらけた声である。三人以外誰もいないことをいいことに新島は東の背後に歩み寄るとそう切り出した。
「何故、東さんはそんなにあの殺人鬼に執着するんですかい?」
「……何故、だと?」
「今では若手だと言うのに多くの犯罪者を捕まえてきたエリートである貴方が、一人の殺人鬼に固執するなど違和感があったんですよ。他の事件に対する視線は淡々としていて冷静沈着、それなのにあの殺人鬼に対する事件の時だけは血相を変えていた。俺にはその理由が理解できないんです」
「わざわざ理解するようなことでもないだろう。お前と違って、俺はどの事件も平等に現場へ赴き解決への糸口を見つける。それ以外のことは考えていない」
「ええ、それは重々承知してます。半端なことが嫌いで妥協など有り得ない東さんですから。でも、やはり第三者として見ていると東さんの先輩とあの殺人犯の子供に対する恨み辛みは異常だ」
薄暗いホームに新島の捲し立てる早口の声が響き渡る。
一歩踏み出した新島は、微かに震える東の背中に向かって問い掛けた。



