行く宛なんて何処にもなくて、海辺に沿って歩き続ける。堤防の上を歩いている蘭は、変わらず何処か上の空であった。
それでも志筑は何も言わず、そして蘭もまた一言も発すること無く海辺を歩き続ける。
ぼんやりとした不安を感じながらも志筑は蘭から目を離して、荒ぶる灰色の海に目を向けた。蘭の言う通り、志筑にもこの海は灰色に見える。
それどころか、目の前に広がる景色全てがモノクロの古い写真のように見えた。色という名の希望なんて無い。夢見るべき明日なんて何処にもないのだと言われている気がした。
「気のせいかもしれねぇけど、俺も思い出したことがある」
不意にそう呟いてみれば、先を進んでいた蘭が立ち止まった。堤防の上で固まる蘭の傍まで歩き続けた志筑は、自分よりも高い位置にいる蘭の顔を見上げる。
錆び付いた機械のように首を動かした蘭と目が合い、志筑はゆっくりと自分自身で確かめるように語る。
「俺は昔、両親を殺した。部屋に飾ってあった花瓶で父親の頭を殴って、腕を折って殺した。台所から取り出した包丁で母親の首を切って殺した」
気が付けば、二人が歩いていたのは海辺ではなく山道に差し掛かろうとしていた。
コンクリートで舗装された道は土と草でできた獣道に変わり、二人は覚束ない足取りでぼんやりとした意識のまま山の中へと入っていく。
「自分で殺したのに信じられなくて、逃げようとした。そしたら、家の前に警察がいたんだ」
「……見つかったってこと?」
「まあ、そうなる。けど、あの時の俺は、始めから何処にも逃げられなかったんだ。親を殺した時点で、俺の逃げ場は何処にもない。だから、警察に捕まって少年院に入るのも必然だったんだって今では思う」
「何それ……。まるで捕まって良かったって言っているように聞こえるけど」
獣道を進んでいた蘭は突然立ち止まり、怒りを滲ませた険しい表情を志筑に向けた。
握り拳を作って怒りに打ち震える蘭を前にしてもなお、志筑は話を止めない。むしろ期待していた通りの反応を見られて楽しんでいる一面さえあった。
「俺みたいな人殺しは、さっさと捕まって閉じ込められるべきだったんだ。一生刑務所にいれば、こんな場所に来ることもお前に出会うこともなかったのに」
足元に落としていた視線を蘭に向ける。たった数歩分しか離れていないのにやけに遠く感じるのは、無意識の内に自分から目の前の少女と距離を離そうとしているからなのだろうか。
「お前に出会わなきゃよかったよ」
それでも志筑は何も言わず、そして蘭もまた一言も発すること無く海辺を歩き続ける。
ぼんやりとした不安を感じながらも志筑は蘭から目を離して、荒ぶる灰色の海に目を向けた。蘭の言う通り、志筑にもこの海は灰色に見える。
それどころか、目の前に広がる景色全てがモノクロの古い写真のように見えた。色という名の希望なんて無い。夢見るべき明日なんて何処にもないのだと言われている気がした。
「気のせいかもしれねぇけど、俺も思い出したことがある」
不意にそう呟いてみれば、先を進んでいた蘭が立ち止まった。堤防の上で固まる蘭の傍まで歩き続けた志筑は、自分よりも高い位置にいる蘭の顔を見上げる。
錆び付いた機械のように首を動かした蘭と目が合い、志筑はゆっくりと自分自身で確かめるように語る。
「俺は昔、両親を殺した。部屋に飾ってあった花瓶で父親の頭を殴って、腕を折って殺した。台所から取り出した包丁で母親の首を切って殺した」
気が付けば、二人が歩いていたのは海辺ではなく山道に差し掛かろうとしていた。
コンクリートで舗装された道は土と草でできた獣道に変わり、二人は覚束ない足取りでぼんやりとした意識のまま山の中へと入っていく。
「自分で殺したのに信じられなくて、逃げようとした。そしたら、家の前に警察がいたんだ」
「……見つかったってこと?」
「まあ、そうなる。けど、あの時の俺は、始めから何処にも逃げられなかったんだ。親を殺した時点で、俺の逃げ場は何処にもない。だから、警察に捕まって少年院に入るのも必然だったんだって今では思う」
「何それ……。まるで捕まって良かったって言っているように聞こえるけど」
獣道を進んでいた蘭は突然立ち止まり、怒りを滲ませた険しい表情を志筑に向けた。
握り拳を作って怒りに打ち震える蘭を前にしてもなお、志筑は話を止めない。むしろ期待していた通りの反応を見られて楽しんでいる一面さえあった。
「俺みたいな人殺しは、さっさと捕まって閉じ込められるべきだったんだ。一生刑務所にいれば、こんな場所に来ることもお前に出会うこともなかったのに」
足元に落としていた視線を蘭に向ける。たった数歩分しか離れていないのにやけに遠く感じるのは、無意識の内に自分から目の前の少女と距離を離そうとしているからなのだろうか。
「お前に出会わなきゃよかったよ」



