荒廃した世界で、君と非道を歩む


「貴方があの殺人犯の子供を逃がしたから、今では多大な被害が出ている。最早、貴方自身の責任ですらあるんですよ」
「ああ、そうやなぁ」
「なんですかその生返事。俺がずっとどんな想いで貴方を探して、同時にあの時を殺人犯を探してきたことか」

 地下駐車場に東の冷たい怒りの声が響き渡った。スマートフォンを握る手に力が入り、微かにギチギチと音が鳴る。
 最早、かつて新汰に抱いていた忠誠心など消え失せていた。今残っているのは、裏切り者に対する怒りだけである。

「貴方がどんな意図を持ってしてあの殺人犯を逃がしたのか知りませんが、俺は俺の正義に従います。もう、俺と貴方はバディではありませんから」

 そう言って一方的に通話を切る。スマートフォンの黒い画面を見つめて、自分自身の鬼の形相に一瞬驚いた。
 自分はこんなにも何かに対して必死になることができるのか。これまで与えられた仕事を熟し、業績を上げることだけに尽力してきた自分が、こんなにも必死になっている。

「待っていろ。必ず、俺が貴様の首根っこを捕まえてやる」

 床に落ちていた紙切れを拾い上げ、ぐしゃっと握り締めた。
 もう、自分の忠義は捨てた。これまで己を縛り上げていた憧れの人物への忠誠心など必要ではない。
 新人時代に可愛いがってくれた先輩、刑事としての理念を教えてくれた先輩、自分が憧れた先輩はもう何処にもいないのだ。

「東さん、東さん。緋色の上着を着た少女を見かけたという情報が入りました。このモールの三階のゲームセンターです」
「ようやくか。これで、俺が正しかったと証明できる」

 スマートフォンをジャケットの内ポケットに仕舞い、電話番号が書かれた紙切れをビリビリに破いて捨てた。
 一連の行動を圓堂は怯えた様子で見ていたが、顔を上げた東の眼差しに圧倒され、背中を向けて歩き出す。

「背筋を伸ばせ圓堂。俺達が怯えていては、犯人に舐められてしまう」

 やけに機嫌がいい様子の東は、圓堂には恐怖以外の何物でもなかった。
 早足に傍を通り過ぎていく東の後ろ姿を見つめ、圓堂は一つの考えに辿り着く。

「もしかして、新島から先輩の連絡先を聞きました?」
「そうだが、何故知っている?」
「新島が僕に言ってきたんですよ。先輩の連絡先を手に入れたから、東さんに渡すべきかどうかと。ああ、僕はどうして新島が先輩の連作先を知っているかなんて知りませんよ」
「新島は一体何を企んでいるんだ……」

 立ち止まって振り返った東はそれまでの機嫌の良さは何処へやら、怪訝な表情を浮かべて圓堂を見つめる。
 新島が何を企んでいるのかなど圓堂に問うたとて分かるはずもない。そう理解していても、問わずにはいられなかった。
 問われた圓堂は、心底困った様子で東を見つめる。普段からオドオドした性格をしている圓堂は、東の勢いにいつも流されてばかりだった。

「まあ、いい。今は奴らを追いかけるのが先だ。ゲームセンターだったな、今すぐ向かうぞ」
「あ、は、はい」

 地下駐車場から地上へ出るためのエレベーターへと二人は向かった。