「路上喫煙は違反行為だ」
そう言って突然目の前に現れた男は、咥えていた煙草を奪い携帯灰皿の中に押し込む。
「東さん。随分と遅かったですけど、何か収穫はあったんですかい?」
「あると思うか。どいつもこいつも同じようなことを答えるだけ。『何も知らない』の一点張りだ」
「殺人鬼の見た目は公開されていないから知らないのは仕方がないとして、女の子の方は目撃者がいてもおかしくなさそうですけどねえ」
「緋色のフード付きの上着、一見目立ちそうなものだが」
新島の隣に回り込み同じく壁にもたれ掛かった東は、はあと長い溜息を吐いた。腕を組んで項垂れる東は、随分と窶れた様子だ。
何故、二人がこのショッピングモールの地下駐車場にいるのかは、一本の通報が関係している。
遡ること数時間前、近所の定食屋の女性店員が警察にとある一本の通報を入れた。内容は、行方不明になっていた十七歳程度の女の子と男が一緒に来店したと。
「店で食事をした後、二人はショッピングモールに行くと話していたらしい。だから俺達警視庁捜査一課の人間が駆り出されたわけだが、未だ足取りは掴めず」
「もしかしたら、すでにモールの中からいなくなっているかもしれませんねぇ」
「そんなことになったりでもしたら、俺個人でも地の果てまで追いかけてやる」
「……すごい執着ですね」
東の怒りを含んだ物言いに新島は背筋に冷たいものが走る感覚を覚える。目の前の空虚を睨みつける東の鋭い視線は、獲物を見つけた獣のそれと同じであった。
新島は隣から溢れ出る恨み辛みの念に押し潰されそうになり、ズボンのポケットから煙草を取り出した。
「新島」
「……すんません」
先程煙草を吸っていて叱られたばかりだったことを思い出し、渋々ポケットに仕舞う。
いつにも増して苛立っている様子の東が気がかりでならなかった。近頃の東は何かに取り憑かれたように、巷で話題の殺人鬼に固執している。
彼が何に囚われているのかなど新島が知っているはずなど無いが、少なからず心当たりはあった。
そんな新島だからこそ、彼の怒りの根源を沈める方法を知っている。少々危ない綱渡りではあるが、試さないよりはマシだと考えたのだ。
「東さん、少し落ち着いてくださいよ。殺人鬼と女の子の行方は殆ど分かっていませんけど、その代わりになるであろう情報を仕入れたんっす」
「……巫山戯ていたらただでは済まさんぞ」
「まあまあ、そう言わず。これ、東さんにあげます」
「これは、電話番号? 誰のものだ」
新島が差し出した紙切れを受け取った東は、折り目に沿って開く。紙にはボールペンで誰かの電話番号が殴り書かれていた。
その電話番号を見た東は新島に視線を送る。不敵に笑う新島は壁から背を離し、ズボンのポケットに手を入れてその場から歩き出した。
「どうするかは、東さんの勝手です」
「俺の、勝手だと?」
ひらひらと手を降って去っていく新島の後ろ姿と電話番号を見比べ、東はジャケットの内ポケットからスマートフォンを取り出した。
電話帳のアプリを開き、紙に書かれている電話番号を打ち込む。通話ボタンを押し耳に当てた。
数秒間呼び出し音が鳴り、少ししてから男の声が聞こえてきた。
「はいはい、どちらさん?」
「は……」
左手から紙が滑り落ちる。地下駐車場に電話の向こうから流れる男の声が響いた。
「外園、先輩……?」



