荒廃した世界で、君と非道を歩む

 だからだろうか、近づいている終焉が遠のくことを願っている自分がいるのだ。
 まだ志筑といたいと、何も知らない志筑のことを知りたいと、そう思っている自分がかつて固めた覚悟を踏み躙っていく。
 殺してほしいと言ったら、志筑は渋々でありながらも旅の終着地点で殺すと言ってくれたのに。
 願った自分自身がまだ死にたくたいと思っているなど、もはや志筑に対する侮辱ですらあった。

「志筑は私を殺した後、どうするの?」
「どうするって……」
「私を殺せば志筑は独りになるよ? また孤独な殺人鬼に逆戻り。それでもいいの?」

 窓の外に向けていた視線を隣りに座っている志筑へと向ける。見開かれた瞳が信じられないと言った様子で蘭を見ていた。
 ずっと志筑の目は三日月に似ていると思っていた。いや、三日月そのもの、彼の瞳は蘭を照らす月であった。
 しかし、そんな志筑の瞳は瞼に隠れていただけで丸い形をしていた。満月、琥珀色をした美しい満月だ。
 出会ってから今までで、彼のこの琥珀色の瞳に自分は何度映ったのだろう。彼には自分がどのような姿をして映っているのだろう。
 分かるはずもない疑問が志筑の瞳を見ているとひっきりなしに浮かんでくる。答えなんて何だってよかった。ただ、何でもいいから彼の口から彼自身の言葉を聞きたいだけだったのだ。

「いつ、俺がお前を独りで逝かせるって言った?」
「え……?」
「お前を殺すのは俺。そんでもって、俺を殺すのも俺自身だ」

 つまり、志筑は自分を殺した後、志筑自身は自害するということか。独りにしないために、後を追おうとしているということなのか。

「なん、で……。志筑まで、死ぬの?」
「この世界に俺達の居場所はない。なら、同じ場所で同じ死に方をすればいい。そうすりゃあ、向こうに行っても寂しかねぇだろ」
「そう、だけど。私、志筑まで死んでほしくは……」
「お前は、俺を独りにすんのか?」

 言われてようやく気が付いた。独りになりたくないから傍にいてほしいと願ったのは自分、独りにしないと誓ったのは志筑。それは、蘭自身も志筑を独りにしないと誓うことであった。
 所詮は子供の戯言。世間一般ではそう切って捨てられるようなことでも、志筑は真っ直ぐに信じていた。

「私、分かんなくなってきたよ……。死にたいって願ったのは自分なのに、今じゃ志筑と生きたいと思ってるんだもん。志筑には死んでほしくない、生きててほしいって思っちゃうの……」

 頬に何かかが触れる感触を感じた。逸らしていた視線を志筑に向けると、彼はやけに窶れた表情を浮かべて蘭の頬に触れていた。
 ゆっくりとそっと触れるその手つきは、割れ物を扱うの如く優しい。