数秒そうして死体を見ていた男は、目を閉じて長い溜息を吐く。もう一度こちらに向き直った男の目には、諦めの色が滲んでいた。
「仕方ねぇ、それなら条件がある。てめぇの逃避行の手伝いをするからてめぇも俺を手伝え。そうすりゃそんな気持ち悪いこと言わなくなるだろ」
「何を手伝えばいい? 連れて行ってくれるなら、私は何だってする」
「一先ず、今見たことは全部忘れろ。後、誰にも言うな」
「分かった。絶対に誰にも言わない」
そう言って頷くと、男はもう一度深い溜め息を吐いた。フードを深く被り直した男は、立ち上がりこちらに背を向ける。
一瞬振り返ったかと思うと、何も言わず路地裏から大通りの方へと歩みを進め出す。
数秒その後ろ姿を眺め、遅れて立ち上がると後を追った。歩幅が大きい男に中々追いつくことができず、大通りに出ればその距離は徐々に広がっていく。
それでも、男が真っ直ぐと向かう場所へひたすら付いて行った。何処へ向かうのか教えてもらうことは無く、それどころか会話を交わすことも無い。
ただ無言で男に付いて行く。人混みに飲まれながらも、真っ黒で細長い男の背中だけを視線に捉え続けた。
夜の街はまだまだ賑やかだが、男は人混みが嫌いらしい。わざわざ人気の少ない場所を選びながら歩くため、徐々に人通りが少なくなっていった。
「なんで、こんな時間に出歩いてた」
「んー、別に理由なんて無いけど……。強いて言うなら暇だったからかな」
「そーか。学校は?」
「行ってない」
道端に連なる落ち葉を眺めながら、吐き捨てるように答える。答えに深い意味はなかった。
けれど、男には意味深に聞こえたようで、不意に立ち止まるとこちらに振り返った。
不思議とこの男と交わす会話は不快ではない。自分を偽ることなく、ありのままの自分で話せている気がした。
誰かと会話をすることすら面倒くさいけれど、同じことを考えるこの男との会話なら少しは楽に感じられたのだ。
決してそんなことを前を歩く男に言うつもりなんてないが。
男の背中を眺めながら歩いていると、気がつけば大通りから外れた寂しい住宅地を歩いていた。人混みから抜けると一気に辺りはしんと静まり返る。
その静寂の中では意識がはっきりとして、改めて前を歩く男を観察する。
全身黒ずくめ、大層着込んでいるようだが素の細さが浮き彫りだ。背は高く細身、一見弱々しく見える背中だが今の自分が突進しても押し倒すことは出来ないだろう。
あれだけ乱雑にナイフを振るっていたのに、衣服にはあまり血が飛び散っていない。中々に怪しい格好をしているが、夜の闇で誤魔化しが効いていた。
「これから何処に行くの?」
どれだけ歩いても男は行き先を口にしない。言うつもりがないのか、教えるという行為が頭から抜け落ちているのか。
どちらにしても流石に不安になってきたため、ダメ元で聞いてみた。
「俺の家」
「うわ、女の子家に連れ込むとか最低」
男は振り返ることなく、前を見据えて歩きながら答える。思わず悪口とも取れる悪態が口をついて出た。包み隠さず零れ落ちた言葉は本音である。
そんな言葉を聞き付けた男は立ち止まると、不機嫌極まりないといった鋭い視線を向けてきた。
「じゃあ着いてくんな」
「いや、別に乱暴されたって悲しむ人なんていないから平気。家には帰りたくないからお邪魔しまーす」
巫山戯てそう答えたら、男は一瞬表情を歪めてまた前を向いた。真っ黒の背中がやけに寂しげに見えたのは気のせいだといいが。
「仕方ねぇ、それなら条件がある。てめぇの逃避行の手伝いをするからてめぇも俺を手伝え。そうすりゃそんな気持ち悪いこと言わなくなるだろ」
「何を手伝えばいい? 連れて行ってくれるなら、私は何だってする」
「一先ず、今見たことは全部忘れろ。後、誰にも言うな」
「分かった。絶対に誰にも言わない」
そう言って頷くと、男はもう一度深い溜め息を吐いた。フードを深く被り直した男は、立ち上がりこちらに背を向ける。
一瞬振り返ったかと思うと、何も言わず路地裏から大通りの方へと歩みを進め出す。
数秒その後ろ姿を眺め、遅れて立ち上がると後を追った。歩幅が大きい男に中々追いつくことができず、大通りに出ればその距離は徐々に広がっていく。
それでも、男が真っ直ぐと向かう場所へひたすら付いて行った。何処へ向かうのか教えてもらうことは無く、それどころか会話を交わすことも無い。
ただ無言で男に付いて行く。人混みに飲まれながらも、真っ黒で細長い男の背中だけを視線に捉え続けた。
夜の街はまだまだ賑やかだが、男は人混みが嫌いらしい。わざわざ人気の少ない場所を選びながら歩くため、徐々に人通りが少なくなっていった。
「なんで、こんな時間に出歩いてた」
「んー、別に理由なんて無いけど……。強いて言うなら暇だったからかな」
「そーか。学校は?」
「行ってない」
道端に連なる落ち葉を眺めながら、吐き捨てるように答える。答えに深い意味はなかった。
けれど、男には意味深に聞こえたようで、不意に立ち止まるとこちらに振り返った。
不思議とこの男と交わす会話は不快ではない。自分を偽ることなく、ありのままの自分で話せている気がした。
誰かと会話をすることすら面倒くさいけれど、同じことを考えるこの男との会話なら少しは楽に感じられたのだ。
決してそんなことを前を歩く男に言うつもりなんてないが。
男の背中を眺めながら歩いていると、気がつけば大通りから外れた寂しい住宅地を歩いていた。人混みから抜けると一気に辺りはしんと静まり返る。
その静寂の中では意識がはっきりとして、改めて前を歩く男を観察する。
全身黒ずくめ、大層着込んでいるようだが素の細さが浮き彫りだ。背は高く細身、一見弱々しく見える背中だが今の自分が突進しても押し倒すことは出来ないだろう。
あれだけ乱雑にナイフを振るっていたのに、衣服にはあまり血が飛び散っていない。中々に怪しい格好をしているが、夜の闇で誤魔化しが効いていた。
「これから何処に行くの?」
どれだけ歩いても男は行き先を口にしない。言うつもりがないのか、教えるという行為が頭から抜け落ちているのか。
どちらにしても流石に不安になってきたため、ダメ元で聞いてみた。
「俺の家」
「うわ、女の子家に連れ込むとか最低」
男は振り返ることなく、前を見据えて歩きながら答える。思わず悪口とも取れる悪態が口をついて出た。包み隠さず零れ落ちた言葉は本音である。
そんな言葉を聞き付けた男は立ち止まると、不機嫌極まりないといった鋭い視線を向けてきた。
「じゃあ着いてくんな」
「いや、別に乱暴されたって悲しむ人なんていないから平気。家には帰りたくないからお邪魔しまーす」
巫山戯てそう答えたら、男は一瞬表情を歪めてまた前を向いた。真っ黒の背中がやけに寂しげに見えたのは気のせいだといいが。



