何処を見ても人の群れで、背の低い蘭では当然道の先を見ることはできない。視界の殆どを行き交う大人の腰に埋め尽くされながらも、大きな道路に沿って続く道を進む。
きっと何処かにいる。きっとあの三日月を背にして待っていてくれている。そう信じていないと不安に押し潰されそうで。
フードを深く被って歩いていると頭上からの視線を感じる。何人もの大人が蘭のことを不審な目で見ているのだ。
いや、違う。何かがおかしい。
一度立ち止まり目を瞑って辺りに意識を集中させる。人々の騒がしい声に混ざって、一人分の足音が自分に向かって近づいてきている。ゆっくりと振り返ると、視界の全てを真っ黒のコートが埋め尽くしていた。
「独りで、何をしているのかな」
それからのことは殆ど覚えていない。買春、誘拐、援交などが横行するこの街で蘭のような子供が独りでいれば、狙われるのは明確であった。
その事をすっかり忘れ、ただ兄を探すことに必死になっていた蘭は一目散に走り出す。
息も絶え絶えで走りながらも自分自身を叱咤した。もっと用心深く物事を考えていれば、こんな恐ろしい思いをしなくても済んだのにと。
しかし相手は大人である。子供である蘭の足の速さでは大人の男性にすぐに追いつかれてしまった。
「嫌、嫌だ! お兄ちゃ────」
口元を手で覆われ声を上げることすら防がれる。軽々と抱え上げられ全身で暴れて抵抗するが、抵抗も虚しく人気のない路地裏へ引き込まれてしまった。
そこには自身を抱える男と別に二人の同じ格好をした男が。
「流石に餓鬼すぎんじゃねぇか」
「馬鹿なのかなんなのか、こんな街中に独りでいたんだよ。どうせこの形じゃあ親もいねぇだろうし、都合がいいってもんだろ」
そういった男は蘭を二人の男の前に放り投げた。地面に崩れ落ち、痛みに前進を苛まれながらも身体を起こす。
顔を上げて周囲を見渡すと、三人の男が自身を取り囲んでいた。不敵な笑みを浮かべ、一人が蘭へと手を伸ばす。
「い、や……。やめて……」
嗚呼、こんなところで死ぬのか。もっとマシな場所でマシな死に方はできなかったのだろうか。そう呑気に考えながら視界を埋め尽くす掌を見つめる。全ての動きがスローモーションに見えて逃げる気力が消えていく。
「助けて……」
生きる気力なんて無くて、訪れようとしている子を呑気に待っているだけだった。このまま終わるのも悪くないとさえ思っていた。
けれど、無意識の内にそう口にしていた。誰も助けてくれないのに、助けてくれる人なんてこの場にいないのに、口をついて出ていた。
まだ、生きたいと思っている自分がいたのだ。まだ、兄と一緒にいたかったのだ。
もう一度だけ、もう一目だけ兄を見たかった。
きっと何処かにいる。きっとあの三日月を背にして待っていてくれている。そう信じていないと不安に押し潰されそうで。
フードを深く被って歩いていると頭上からの視線を感じる。何人もの大人が蘭のことを不審な目で見ているのだ。
いや、違う。何かがおかしい。
一度立ち止まり目を瞑って辺りに意識を集中させる。人々の騒がしい声に混ざって、一人分の足音が自分に向かって近づいてきている。ゆっくりと振り返ると、視界の全てを真っ黒のコートが埋め尽くしていた。
「独りで、何をしているのかな」
それからのことは殆ど覚えていない。買春、誘拐、援交などが横行するこの街で蘭のような子供が独りでいれば、狙われるのは明確であった。
その事をすっかり忘れ、ただ兄を探すことに必死になっていた蘭は一目散に走り出す。
息も絶え絶えで走りながらも自分自身を叱咤した。もっと用心深く物事を考えていれば、こんな恐ろしい思いをしなくても済んだのにと。
しかし相手は大人である。子供である蘭の足の速さでは大人の男性にすぐに追いつかれてしまった。
「嫌、嫌だ! お兄ちゃ────」
口元を手で覆われ声を上げることすら防がれる。軽々と抱え上げられ全身で暴れて抵抗するが、抵抗も虚しく人気のない路地裏へ引き込まれてしまった。
そこには自身を抱える男と別に二人の同じ格好をした男が。
「流石に餓鬼すぎんじゃねぇか」
「馬鹿なのかなんなのか、こんな街中に独りでいたんだよ。どうせこの形じゃあ親もいねぇだろうし、都合がいいってもんだろ」
そういった男は蘭を二人の男の前に放り投げた。地面に崩れ落ち、痛みに前進を苛まれながらも身体を起こす。
顔を上げて周囲を見渡すと、三人の男が自身を取り囲んでいた。不敵な笑みを浮かべ、一人が蘭へと手を伸ばす。
「い、や……。やめて……」
嗚呼、こんなところで死ぬのか。もっとマシな場所でマシな死に方はできなかったのだろうか。そう呑気に考えながら視界を埋め尽くす掌を見つめる。全ての動きがスローモーションに見えて逃げる気力が消えていく。
「助けて……」
生きる気力なんて無くて、訪れようとしている子を呑気に待っているだけだった。このまま終わるのも悪くないとさえ思っていた。
けれど、無意識の内にそう口にしていた。誰も助けてくれないのに、助けてくれる人なんてこの場にいないのに、口をついて出ていた。
まだ、生きたいと思っている自分がいたのだ。まだ、兄と一緒にいたかったのだ。
もう一度だけ、もう一目だけ兄を見たかった。



