荒廃した世界で、君と非道を歩む


「いつからだっけ、また独りになったのは」

 正座をしていた足が痺れ始めた。足を崩して座り直すと、すでに手遅れで足がビリビリとした痛みを発する。
 目を閉じると幼い頃の記憶が蘇った。何年も前に蓋をして思い出さないようしていた記憶。

「ずっと守っていてくれたんだね。あの時はあんたの名前なんて知らなかったから、“お兄ちゃん”って呼ぶしかなかった」
「んだよ、人がせっかく言ってやったことを忘れてやがったのか」
「え、志筑は覚えてたの?」
「俺は嘘が嫌いだ。自分で言ったことを覆すことも自分に嘘を吐くことも全部な」

 ずっと不安だったのだろう。何度も志筑が向けた優しさが全て嘘だったのではないか、昔に交わした約束も全て嘘だったのではないかと。
 けれど、それは杞憂だった。忘れていたのは蘭の方だったのだ。
 途端に身体から力が抜け、布団の上に力なく倒れ込む。目の奥がじんわりと熱くなって、喉の奥が痛い。

「なあんだ、志筑はずっと前から気づいてたんだ」
「言うべきか迷ったんだけどな。久々に顔を見たと思えばビビって腰抜かしやがるし、俺のことは忘れてるみてぇだし」
「本当だよ。何十回とあのビルで一緒に隠れてたのにね」

 どうして忘れてしまったのか、それすらも忘れてしまった。名も知らない少年と過ごした日々、何度もあの廃墟ビルに逃げ込み二人で盗んで手に入れた食品を食らう。夜が来たらそのまま眠り、また朝を迎える。
 そのまま二人で何処かへ逃げたら、また地獄を見ることはなかったはずだった。

「ねえ、どうして、いなくなったの?」

 毎日廃墟ビルに逃げ、毎日男の子と夜を明かす。そんな毎日がずっと続くものだと思っていたのに、ある日突然男の子は姿を消した。
何度廃墟ビルに行っても、男の子は姿を見せなかった。

「……院に入ってたんだよ。親を殺したから」
「え、は?」
 
院、と言うと少年院のことだろう。今更親を殺したから捕まったと聞いても驚きはない。相手は連続猟奇殺人気で指名手配されているのだ。
蘭が驚きに素っ頓狂な声を上げたのは、親を殺したという部分ではない。
ずっと探し回っていたのに見つからなかった間、姿を消していた間、幼い頃の彼は少年院に入っていたと言うのだ。
探すことを諦めて、二人で過ごした時間を忘れるくらい長い期間を彼は少年院で過ごしていた。
知っている中でも数少ない志筑の過去である。

「親を殺したのが始まりだったんだ。全部、アイツらの元に生まれたせいで壊れたんだよ」

布団の上で固く握られた拳は、長年蓄積された怒りに打ち震えていた。