再び一人になった蘭は居た堪れなくなり、自分自身を誤魔化すために部屋の中をキョロキョロと見渡す。
先ほど男の子が座っていたのであろうソファ、小汚いキッチン、折りたたみ式の机と椅子、部屋の中にある家具というとこれくらいのものである。
何とも生活感のない部屋だ。廃墟ビルであるから、少なくとも男の子が勝手に住み着いているのであろう。
「ん……」
ぼんやりと部屋の中を眺めていると、部屋の奥から蘭の元へ戻ってきた男の子が薄いタオルを押し付けてきた。
「拭けよ」
貸してくれるということだろうか。なんと言葉足らずな、と思うが如何にも不器用ですという見た目をしているのだ。これくらい無愛想な方が気を使わなくて楽そうだった。
「んなとこで突っ立ってねぇで、こっち来いよ」
「え、入っていいの?」
「もう入ってんだろ。別に俺だけの場所ってわけじゃねぇし、餓鬼が一人増えたところで変わらねぇよ」
そう言って男の子はソファに座るよう促してきた。正体の知れない何かのシミが付いたソファに腰掛けると、男の子も隣に腰を下ろす。
首にかけたタオルは決して心地よいものではなく、紙を巻いているようである。けれど不快ではなかった。
「お前、何処から来た」
「………分からない」
「は? 分からないわけねぇだろ。家は、親はどうした」
「親なんていない! あんな人達親じゃない!」
口早にそう叫ぶと、しばし部屋の中には静寂が満ちた。タオルで顔を隠せば全ての情報がシャットアウトされる。
男の子は何も言わなかった。慰めることも叱ることもなく、ただ隣りに座って黙っているだけだった。
もしかしたら、自分はこの男の子からの言葉を期待していたのかもしてない。早く帰れ、そんな事を言うなと言ってほしかったのかもしれない。
けれど、男の子はどれだけ待っても何も言わない。タオルで顔を隠していたから彼の表情を伺えずにいた。
何を考えているのかなど初対面で分かるはずもない。だから少し様子を見るためだと自分に言い聞かせ、頭まで上げていたタオルを首に掛け直し、隣に顔を向けた。
男の子は俯いて押し黙っていた。長い前髪が彼の横顔を覆い隠し、表情全てを掻き消している。
吹き抜けになった窓の外には、男の子の目とよく似た三日月が浮かんでいた。その月明かりが部屋の中に差し込み、男の子の黒髪を金色に照らす。
「親が、嫌いなのか……?」
顔を上げた男の子は、随分と悲しげな表情をしていた。
先ほど男の子が座っていたのであろうソファ、小汚いキッチン、折りたたみ式の机と椅子、部屋の中にある家具というとこれくらいのものである。
何とも生活感のない部屋だ。廃墟ビルであるから、少なくとも男の子が勝手に住み着いているのであろう。
「ん……」
ぼんやりと部屋の中を眺めていると、部屋の奥から蘭の元へ戻ってきた男の子が薄いタオルを押し付けてきた。
「拭けよ」
貸してくれるということだろうか。なんと言葉足らずな、と思うが如何にも不器用ですという見た目をしているのだ。これくらい無愛想な方が気を使わなくて楽そうだった。
「んなとこで突っ立ってねぇで、こっち来いよ」
「え、入っていいの?」
「もう入ってんだろ。別に俺だけの場所ってわけじゃねぇし、餓鬼が一人増えたところで変わらねぇよ」
そう言って男の子はソファに座るよう促してきた。正体の知れない何かのシミが付いたソファに腰掛けると、男の子も隣に腰を下ろす。
首にかけたタオルは決して心地よいものではなく、紙を巻いているようである。けれど不快ではなかった。
「お前、何処から来た」
「………分からない」
「は? 分からないわけねぇだろ。家は、親はどうした」
「親なんていない! あんな人達親じゃない!」
口早にそう叫ぶと、しばし部屋の中には静寂が満ちた。タオルで顔を隠せば全ての情報がシャットアウトされる。
男の子は何も言わなかった。慰めることも叱ることもなく、ただ隣りに座って黙っているだけだった。
もしかしたら、自分はこの男の子からの言葉を期待していたのかもしてない。早く帰れ、そんな事を言うなと言ってほしかったのかもしれない。
けれど、男の子はどれだけ待っても何も言わない。タオルで顔を隠していたから彼の表情を伺えずにいた。
何を考えているのかなど初対面で分かるはずもない。だから少し様子を見るためだと自分に言い聞かせ、頭まで上げていたタオルを首に掛け直し、隣に顔を向けた。
男の子は俯いて押し黙っていた。長い前髪が彼の横顔を覆い隠し、表情全てを掻き消している。
吹き抜けになった窓の外には、男の子の目とよく似た三日月が浮かんでいた。その月明かりが部屋の中に差し込み、男の子の黒髪を金色に照らす。
「親が、嫌いなのか……?」
顔を上げた男の子は、随分と悲しげな表情をしていた。



