荒廃した世界で、君と非道を歩む

 怒っているわけでも呆れているわけでもない。ただ、心の底からそう思っているだけで、思ったままのことを口にしただけ。そう言いたげなほどに自然に発された言葉だった。

「最善、んなものがあれば俺はこんなになっちゃいねえ。お前だってその最善とやらがあれば、こんなところで溶けたアイスに手を汚さずにふかふかの布団で寝ている頃だ。俺にもお前にも、最善の選択肢なんて初めから用意されていない。学校に行く普通、家族と同じ屋根の下で暮らす普通、普通の暮らしをする普通、全部俺達には初めからなかったんだよ」
「……私達には、人間としての普通がないってこと?」
「世間からしたら、俺達は社会不適合者。邪魔者なんだよ」

 そう投げやりに吐き捨てながら残りのアイスキャンディーを頬張る。木の棒を片手で折り、窓の外に向けていた視線を蘭の方へと向ける。
 向けられたその瞳には、先程の鋭い怒りはない。ただその瞳に浮かぶのは、怯えに表情を歪める一人の少女が映っているだけであった。

「それでも、俺達は今生きている。呼吸をして、身体中を血液が巡っている。勝手に与えられた生に馬鹿みてぇに縋ってんだよ」

 椅子から立ち上がり、居間へと入っていく。何をするのか気になり様子を見守っていると、志筑はちゃぶ台の上のティッシュ箱からティッシュを一枚取り出し、蘭へと向き直った。
 決して蘭の目を見ることはなく、視線は足元に落としたままだが、蘭の下へと真っ直ぐに向かった。
 蘭の目の前まで来ると、突然その場に膝を着き、顔を上げた。

「けど、そうやってがむしゃらに生きている方が余っ程性に合ってる。それはお前も同じだろ?」

 溶けたアイスキャンディーによって汚れた右手に触れると、そのまま握っていたアイスキャンディーを取り上げて乱暴に蘭の口に放り込む。そして行き場を失った小さな右手をティッシュを拭き始めた。
 律儀に左手で蘭の右手を支え、右手に握ったティッシュで汚れを拭う。何だかこの状況が小っ恥ずかしく感じて、蘭は空いていた左手でアイスキャンディーの棒を握り視線を窓の外に投げた。

「……何とか言えよ」
「だって、怖いよ。このまま外に出たら、志筑は捕まっちゃうかもしれない。そうなったら私は独りになって、願いを叶えられなくて、また地獄に逆戻りで」
「馬鹿だな」

 視界の端を何かが横切る。それに気がつくと同時に、志筑の手が蘭の左頬に触れた。
 ひんやりとした感触が左頬全体に広がる。志筑は蘭の頬に触れ、視線を無理矢理自身の方へと向けた。

「俺が捕まるわけねぇよ。警察なんて輩に捕まるくらいだったら、その場で死んでやらあ」
「嫌だよ。志筑は死なないで」

 真似をするように蘭も志筑の頬に手を伸ばす。そっと優しく触れれば微かな温もりが掌から感じた。