荒廃した世界で、君と非道を歩む


「俺と一緒にいるの」

 ざばんと一際大きな波が押し寄せる。街から外れた海には、二人以外に誰もいない。波の音だけが二人の間を埋める静寂を打ち破る。
 二人の頭上に広がる紺藍の空に星が瞬き出した。夕日はとうに沈み、また一日が終わりへと近づいていた。

「お前まで罪人になる必要は無い」
「なんで、なんでそんなこと……」
「お前には未来があるから」

 ようやくこちらを向いたかと思えば、琥珀色の目に自分は映っていなかった。自分だけではない、この空間あるもの全てが遮断されて彼の瞳は何も映らない。
 一日が終わりへと近づくように、二人の関係もまた終わりへと近づいていた。

「未来……未来って、何……?」

 未来なんてあってもなくても同じだ。死に場所を探しているんだから、今更未来なんて追い求めたところで意味が無い。
 それでも、志筑といられるなら未来を見ようと思った。この先に待つ見ず知らずの未来を信じようと思えた。志筑がいたから、理想の死に場所を見つけるまで生きようと思えた。
 それなのに、どうして志筑がそれを否定するんだ。

——怖くなったからって、逃げんなよ——

 志筑は怖くなったのか。殺人鬼のくせして、逃げているのは志筑の方だったのか。
 言っていることが矛盾していて、理解できなくて、何と言い返したらいいのか分からない。志筑が考えていることが何一つとして理解できなかった。

「巫山戯んな」

 蘭の声を聞いても志筑は何も言わない。何かあれば怒りを露わにして感情を剥出しにするのに、こういう時に限って飄々と受け流す。冷静な時の蘭ならばこんあことで怒りを爆発させるようなことはない、けれど今は冷静ではいられなかった。
 その知ったような、諦めたような自分勝手な反応が蘭の怒りに触れたのだ。
 自分のことを見てくれない志筑の目を見つめ、蘭は砂浜に手を着く。ぐっと身体を前に乗り出し、鼻先が当たる距離まで近づくと白く細い志筑の首に手を回した。
 両手で首を掴めば、志筑は驚きに目を見開いて蘭の顔を見た。
 そんな志筑を無視して全体重を乗せ、そのまま押し倒す。志筑の上に馬乗りになった蘭は、キリキリと首を掴む手に力を込めた。

「一緒にいるのをやめろ? 巫山戯んな! 私に未来なんかない、死に場所探してる人間に明日なんてないの! ましてやあんたと居られないとか、そんなの絶対に許さない!!」

 乱れた前髪が志筑の目を隠す。首を絞めようが何も言わない志筑に再び怒りが爆発した。
 どれだけ力を込めてもこの相手を殺すことはできない。自分は力が弱すぎる。志筑相手ではなく、同じ年頃の女子にしても簡単に振り解かれてしまうだろう。
 それなのに志筑は何も言わない、抵抗すらしない。
 このままこの殺人鬼を殺せば、世界の英雄にでもなれるだろうか。