荒廃した世界で、君と非道を歩む

 浜辺に二人で腰を下ろし、水平線の向こう側へ沈んでいく夕日を眺める。日中では考えられない真っ赤な夕日を眺めながら、隣に座る志筑の肩に頭を置いた。
 出会ったばかりの頃の志筑ならば、肩に頭を置くなり嫌がったことだろう。しかし今は何も言わず、静かに受け止めてくれる。
 蘭と行動を共にするようになったからか、それとも素の性格が案外繊細で大人しい方なのか。
 どちらにせよ、この志筑の優しさを知っているのは蘭唯一人である。それが蘭の全てであった。

「そう言えば名前以外何も聞いてなかったけど、志筑って何歳なの?」

 ふと気になって聞いてみる。見た目で言えば十八歳から二十代前半くらいに見えるが、今時童顔の人も多いから見た目から年齢を推測するのは難しい。それでも、少なくともまだまだ子供の蘭よりも歳上なのは確実だろう。

「今年で二十歳になる」
「じゃあ、今は十九歳?」
「そうだな」
「意外。もう少しいってると思ってた」
「お前はいくつだよ」
「私は今年で十八歳になるから今は十七歳。普通なら高校生だね」

 志筑の中で「普通なら」という言葉が引っかかる。普通の高校生ではないから自分は普通ではない、そう蘭は言いたいのだろう。
 普通なら学校に通っていて、友達がたくさんいて、様々な勉強をしていたはずだ。だが、その普通が蘭にはない。
 外で十七歳だと言えば、「もう少し若く見える」とよく言われた。見た目で判断されることがいつの日からか当たり前になっていたのだ。
 また年齢で馬鹿にされる、そう思って身構えたが、志筑は蘭の年齢を聞いても特に変わった様子は見せなかった。
 と言うか、元々予想していてそれが当たったような確信めいた反応をしている。

「なんだ、お前にとって学校に行くのが普通なのか?」
「え、そうじゃないの?」

 蘭は質問に質問で返し、夕日に向けていた視線を志筑の横顔へと映した。蘭が見つめる志筑は夕日の沈んだ水平線を眺めている。
 遠くを見つめる志筑の目に光が反射し、月明かりのようにキラリと光った気がした。

「俺も学校には通ってなかったんだ。ずっと独りで、気がつけばムカつく奴を殺してた」

 志筑が殺人鬼になる前のこと、殺人をするようになった理由の大元を今、志筑はさらりと告白した。
 蘭はそれを聞き逃さない。涼し気な横顔を驚きに目を見開き見つめた。視線に気がついてゆっくりと蘭に顔を向けた志筑の顔は、何処か悲しげで、しかし優しく微笑んでいた。

「今更言うことでもねぇけど、やめといた方がいい」
「な、何が」

 嫌な予感がする。
 志筑が今から言うことが怖くて怖くて堪らなくて、好きだったはずの声を聞きたくないと思ってしまう。
 しかし、そんな思いも虚しく志筑は水平線に視線を戻して口を開いた。