昨晩と同じように志筑の背中を追いかけながら昼の街を散策する。昼過ぎに外に出るのはいつぶりだろうか。
住宅街から繁華街に入ると辺りは一気に賑やかになる。大通りは大勢の人々によって波が生まれていた。
志筑が大通りへの入口で立ち止まっていたため、蘭は駆け足で彼の傍に寄った。顔を覗き見れば、その表情は不機嫌そうに歪められている。
「どーしたの?」
「平日の昼間だってのに多すぎんだよ。はあ、ここを通らなきゃならねぇってのに」
直接蘭の問に答えること無く、志筑は真っ直ぐと人で溢れ返る大通りの中へと向かう。
数秒間その背中を眺め、意を決して蘭も大通りに向かって踏み出した。繁華街の入口を表すアーケードを潜ると、不幸にも志筑の姿を見失ってしまった。
(最悪……)
どれだけ先を見渡しても、あの黒ずくめの背中を見つけることはできない。人混みの中で独りになったことに絶望を感じ、志筑とはぐれてしまったと気づくのに時間を有した。
焦りと不安に背を押されながら人の流れに沿って進む。左手の大通りと、右手の多種多様の商店に挟まれて歩いていると、見たこともない商品に次々に目移りしてしまう。
横目で商店の様子を見ながら歩き続け、電化製品店の前を通る。ふいにその電化製品店の前で足を止めた。
人の流れから外れて電化製品店に近寄ると、硝子に覆われたテレビを覗き込む。展示されているテレビにはニュースが流れていた。
『────の路地裏で───と見られる─────が───されました。犯人は今も─────』
流れていたのは、現在巷を騒がせている殺人事件のニュースだ。被害者の名前、年齢は報道されているのに犯人の名前は一度も流れなかった。犯人は今も捕まっていない。犯人は、今もこの世界の何処かで逃げ回っている。
このニュースで名前が挙がった被害者は、皆志筑によって殺されたのだろうか。志筑の顔を知ること無く死んでしまったのだろうか。
何故、志筑は人殺しを続けるのだろう。何故、志筑は人殺しになってしまったのだろう。
(志筑は、何処で道を踏み外しちゃったんだろう……。誰も救ってくれなかったのかな)
『救う』この言葉がどれだけ薄っぺらくて無責任な言葉なのか、蘭は身を持って理解しているつもりだった。
何よりもこの言葉が嫌いだ。結局は皆口だけで、誰も救ってくれなかったから。
誰も救ってくれなかったから、世界から逃げ出した自分は今、世間を騒がせている殺人鬼の隣にいる。犯罪者と共に犯罪者へと成り下がった。
けれど、不思議と蘭の身体を殺人鬼と行動を共にしている優越感が支配した。
「何してんだ」
「あっ、志筑……」
蘭を見失ったことに気が付いて戻ってきたらしい志筑は、展示品のテレビを見つめていた蘭を見下ろした。微かに息が上がっている。ここまで走って戻ってきたのだろうか。
呆けた声を蘭が上げると、志筑ははあと深く溜息を吐く。それから、蘭が見ていたテレビに映し出されたニュースへと視線を動かした。
テレビを見つめる志筑の顔を見つめる。数秒前まで報道されていた殺人事件の犯人なのかもしれない人物が隣りにいる。常識を持っていれば今すぐにでも、出会った頃にでも警察へ通報するべきだ。
けれどそうしないのは、志筑が自分に死に場所を与えてくれる人であるから。
「あんたって、街にはよく来るの?」
表情を強張らせてニュースを見る志筑の横顔に問い掛ければ、彼は二拍ほど置いて蘭の顔を見た。
その表情は無表情に見えて焦りと恐怖が入り混じっている、ように蘭の目に映った。
(殺人鬼のくせに、無駄に人間らしいんだから……)
志筑は自分よりもよっぽど人間らしい。そう蘭は志筑の琥珀色の目を見つめながら考える。
人間だからこそ逃げる。人間だからこそ終焉を恐れる。ニュースを見た志筑が表情を変えたように。
住宅街から繁華街に入ると辺りは一気に賑やかになる。大通りは大勢の人々によって波が生まれていた。
志筑が大通りへの入口で立ち止まっていたため、蘭は駆け足で彼の傍に寄った。顔を覗き見れば、その表情は不機嫌そうに歪められている。
「どーしたの?」
「平日の昼間だってのに多すぎんだよ。はあ、ここを通らなきゃならねぇってのに」
直接蘭の問に答えること無く、志筑は真っ直ぐと人で溢れ返る大通りの中へと向かう。
数秒間その背中を眺め、意を決して蘭も大通りに向かって踏み出した。繁華街の入口を表すアーケードを潜ると、不幸にも志筑の姿を見失ってしまった。
(最悪……)
どれだけ先を見渡しても、あの黒ずくめの背中を見つけることはできない。人混みの中で独りになったことに絶望を感じ、志筑とはぐれてしまったと気づくのに時間を有した。
焦りと不安に背を押されながら人の流れに沿って進む。左手の大通りと、右手の多種多様の商店に挟まれて歩いていると、見たこともない商品に次々に目移りしてしまう。
横目で商店の様子を見ながら歩き続け、電化製品店の前を通る。ふいにその電化製品店の前で足を止めた。
人の流れから外れて電化製品店に近寄ると、硝子に覆われたテレビを覗き込む。展示されているテレビにはニュースが流れていた。
『────の路地裏で───と見られる─────が───されました。犯人は今も─────』
流れていたのは、現在巷を騒がせている殺人事件のニュースだ。被害者の名前、年齢は報道されているのに犯人の名前は一度も流れなかった。犯人は今も捕まっていない。犯人は、今もこの世界の何処かで逃げ回っている。
このニュースで名前が挙がった被害者は、皆志筑によって殺されたのだろうか。志筑の顔を知ること無く死んでしまったのだろうか。
何故、志筑は人殺しを続けるのだろう。何故、志筑は人殺しになってしまったのだろう。
(志筑は、何処で道を踏み外しちゃったんだろう……。誰も救ってくれなかったのかな)
『救う』この言葉がどれだけ薄っぺらくて無責任な言葉なのか、蘭は身を持って理解しているつもりだった。
何よりもこの言葉が嫌いだ。結局は皆口だけで、誰も救ってくれなかったから。
誰も救ってくれなかったから、世界から逃げ出した自分は今、世間を騒がせている殺人鬼の隣にいる。犯罪者と共に犯罪者へと成り下がった。
けれど、不思議と蘭の身体を殺人鬼と行動を共にしている優越感が支配した。
「何してんだ」
「あっ、志筑……」
蘭を見失ったことに気が付いて戻ってきたらしい志筑は、展示品のテレビを見つめていた蘭を見下ろした。微かに息が上がっている。ここまで走って戻ってきたのだろうか。
呆けた声を蘭が上げると、志筑ははあと深く溜息を吐く。それから、蘭が見ていたテレビに映し出されたニュースへと視線を動かした。
テレビを見つめる志筑の顔を見つめる。数秒前まで報道されていた殺人事件の犯人なのかもしれない人物が隣りにいる。常識を持っていれば今すぐにでも、出会った頃にでも警察へ通報するべきだ。
けれどそうしないのは、志筑が自分に死に場所を与えてくれる人であるから。
「あんたって、街にはよく来るの?」
表情を強張らせてニュースを見る志筑の横顔に問い掛ければ、彼は二拍ほど置いて蘭の顔を見た。
その表情は無表情に見えて焦りと恐怖が入り混じっている、ように蘭の目に映った。
(殺人鬼のくせに、無駄に人間らしいんだから……)
志筑は自分よりもよっぽど人間らしい。そう蘭は志筑の琥珀色の目を見つめながら考える。
人間だからこそ逃げる。人間だからこそ終焉を恐れる。ニュースを見た志筑が表情を変えたように。



