「取り調べの後、志筑は少年院に入ることになった。けど」
「けど……?」
「俺が逃がした。親に愛されることだけを願ったあいつが哀れに見えてな」
テーブルに肘を付いて項垂れる新汰は酷い後悔に苛まれているようだ。今更どうにもならない後悔に苦しみ続ける哀れな罪人。
「当然そのことは上にバレてもうて、俺は刑事を失職。仕事を失った俺はふらふらしとったよ」
刑事にしてはチャラついた見た目も全ては過去の過ちを償うための懺悔だったのだろうか。
新汰が犯した禁忌は刑事としても人間としてもあってはならないことだ。決して許されてはいけないし正当化するものでもない。
けれど、新汰がいなければ蘭は志筑に出会うことはなかった。ずっと独りで孤独に生きるしかなかった。
荒廃したこの世界から救ってくれたのは新汰も同じだった。
「ねえ、新汰」
「んー?」
「外行きたい」
「外って、禁止されとるんとちゃうん?」
そうだ。数ヶ月前に崖の上で起こった一件で、蘭は精神病を患っていると診断された。人を撃ったこと、血を見たことなどが諸々重なりパニック障害を引き起こしたのだ。
この精神病院に来てからだいぶ落ち着きを取り戻したが、それでも刺激を与えるのは危険であると医者は判断していた。
「いいの。私が行きたいって言ったんだから」
「……俺、お医者さんには叱られたないで」
「大丈夫。私がそんなことはさせないから」
そう言うや否や新汰の手を握って立ち上がった蘭は休憩所を出ていく。
病院を出て大きな広場に出ると、看護師が言っていた青空は何処にもなかった。あったのは見覚えのある曇天である。
蘭は新汰の手を引いたまま中庭を練り歩いた。新汰は手を引かれるままに蘭の後を追う。
「……しんどくないか」
「なんで?」
何気なく新汰がそう問いかけると、蘭は立ち止まって目を丸くした。振り返った彼女は年の割に幼く見えて、新汰は何だか居た堪れない。
「蘭ちゃん、前に曇り空見てパニックになったって聞いたから」
「ああ、あれ? ここの看護師って大げさすぎるんだよ。別に曇り空を見たからおかしくなったんじゃない。あいつらが馬鹿にしたの」
「馬鹿にした? 何を?」
オウム返しに質問をする新汰を見て蘭は少しだけ口角を上げた。笑っているつもりなのだろうが上手く笑えていない。
傍にあったベンチに腰掛けた蘭は、曇り空を見上げてぽつりと呟く。誰に聞かせるでもなく、ただ独り言のように。
「志筑のことを最低な人殺しだって」
季節外れの生温い風が蘭の長い髪を靡かせた。まだ幼さの残っているはずの横顔は凛としていてやけに大人びて新汰の目に映った。



