荒廃した世界で、君と非道を歩む


「私は、今でも出会ってよかったって思ってる。これまでもこれからもそれは変わらない。でも」

 でも、あの人は言った。

『お前に出会わなきゃよかったよ』

 私はその言葉が信じられなかった。
 その言葉を聞いた瞬間全ての音が止まって、目の前の景色から色が消えて、時間が止まったように感じて、そして呼吸が止まった。

「死に場所を探す旅なんて、一緒に居続けるための口実でしかなかった」

 暗闇に包まれた路地裏で出会った時、蘭はその人に願った。
 世界の全てに嫌気が差して、誰にも必要とされず愛されない自分が嫌いで、死にたかった。

「ちょうど良かったんだよ。殺人鬼なら人を一人多く殺したところで罪に問われるのは同じでしょ。だから、死ぬのに都合が良かった」

 自分はあの人のことを利用していただけなのだ。灰色の空の下、新汰が蘭に言った通り、蘭はただの自殺志願者でしかなかった。
 死に場所なんて何処でもいい、誰にも知られず静かに死ねるなら何処だって良かった。
 
「けんど、一緒にいるにつれて未練が募っていった」
「あいつと過ごす時間ってさ、想像以上に楽しいの。何処へ行くにもあいつは嫌な顔をせず、黙って付いて来てくれた。それが本当に嬉しくて……」

 今でもあの人に対して抱いていた感情の正体が分からない。依存していたようにも思えるし、時には微かな嫉妬すらも覚えた。
 見ず知らずの刑事の男が蘭に言ったように、蘭は十七年間まともな教育を受けてこなかった。だからこの感情の正体など誰にも教えてもらっていないのだ。

「私、好きだったのかな」

 そう呟いてみるが何だかしっくりこない。

「どうやろうな」

 新汰もまた腑に落ちていないようだった。けれど、間違えてはいないと思う。
 恋愛的な感情なのか、家族同然に見ていたのか、同意味を持って好きだったのかは分からない。
 理由は何であれ、自分は好きだった。あの人のことが心の底から好きだった。
 
「会いたい。また、会いたい」

 そう言葉にしてみれば、ずっと心の奥底に仕舞っていた感情が溢れ出してくる。
 何度も、何度も、恥ずかしげもなくその言葉を繰り返す。
 新汰は泣きじゃくりながらその言葉を繰り返す蘭を静かに見守っていた。時に頭に手を乗せ、時に流れ出る涙を拭いながら。

「俺も、あいつに会いたいよ。なあ、蘭ちゃん。少し俺の話を聞いてくれんか」

 そう前置きをした新汰は改めて蘭に向き直ると、一つ息を吸って語り始めた。