互いに苦笑を零しながら店に入ると、話題に取り上げられていることなど知らない小瀧は鏡子達と楽しげに話していた。
仁武が彼の向かいの席に座り、一足先に彼らの会話に混ざる。
店の裏にある小さな倉庫に箒を仕舞い、部屋で身なりを整えると彼らのいる店内へと戻り会話に混ざった。
「芝さんがご一緒でないなんて珍しいですね」
「上官に雑務を押し付けられたようで、少し遅れると言っていました」
鏡子の疑問に小瀧は苦笑を零しながら答える。慣れたことのようでさほど気にはしていないらしい。仁武は笑いながら彼らの話に相槌を打っている。
「ごめんください。小瀧と風柳はいるだろうか」
ガラガラと引き戸を引く音が聞こえ、一同の視線は一瞬にして店の入口へと吸い寄せられる。
少しして見慣れた男の顔が覗いた。仁武と小瀧と同じ軍服を身に纏った屈強な男である。
「あら、芝さんじゃあないですか。思っていたよりも早く終わったんですね。てっきり来ないものかと」
「何、気合で終わらせてきたさ。ここへ来ないと一日が始まらん」
「ふふ、嬉しいことを言ってくれますね」
鏡子の揶揄いなどものともせず、上手く受け流せるのはこの男くらいだろう。
揶揄われても簡単に笑いへと変える。今では彼によるお巫山戯がなければ、一日が始まらないと言っても過言ではなかった。
「す、すみませーん……。遅れましたぁ」
継いで顔を覗かせたのは、芝の明るさと相対した根暗な男である。背丈は芝と並ぶと頭一つ小さく、猫背であるがゆえに余計に小さく見える。芝の体格が良いだけのようにも感じるが、小瀧と並んでもその差は歴然である。
男の根暗さは言葉からも感じられ、芝の背後から負の雰囲気すら漂っている。
「江波方、また寝坊か。昨晩も夜更かししていたのだろう」
「本って読み出すと止まらなくてぇ」
芝に半ば引き摺られつようにして彼らも席に着き、いつの間にか大人数の団欒の場ができていた。
客足が減り、彼ら以外の客がいない間はこうして何気ない話をするのだ。今では蕗だけでなく、皆の楽しみになっている。
「しかし江波方、お前はもう少し風柳を見習え。年下である風柳の方がよっぽどしっかりしているぞ」
「いやぁ、そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、いつも無理矢理叩き起こしてますよね」
「お前はうちでも若造なんだから早起きをして損はないだろう。寝付きも寝起きも良い今だからこそ時間を大切にするんだ」
「だからって夜中の三時に起こす奴がいますか! 夜中の! 三時ですよ! 時間を大切にするしない以前に、もっと寝かせてください!」
珍しく声を荒げる仁武の悲痛な叫びが店内に響き渡るが、芝はそんな彼の願いを聞く気はないらしい。笑い声を上げながら無理矢理話を終わらせる。
芝の言う通り、同い年の蕗を除けば仁武はこの中でも一番の若輩者に当たる。子供扱いされるのも無理はない。
腑に落ちていない様子の仁武はそれ以上反論することはなくても、ぶつぶつと怒りを小言にしていた。
仁武が彼の向かいの席に座り、一足先に彼らの会話に混ざる。
店の裏にある小さな倉庫に箒を仕舞い、部屋で身なりを整えると彼らのいる店内へと戻り会話に混ざった。
「芝さんがご一緒でないなんて珍しいですね」
「上官に雑務を押し付けられたようで、少し遅れると言っていました」
鏡子の疑問に小瀧は苦笑を零しながら答える。慣れたことのようでさほど気にはしていないらしい。仁武は笑いながら彼らの話に相槌を打っている。
「ごめんください。小瀧と風柳はいるだろうか」
ガラガラと引き戸を引く音が聞こえ、一同の視線は一瞬にして店の入口へと吸い寄せられる。
少しして見慣れた男の顔が覗いた。仁武と小瀧と同じ軍服を身に纏った屈強な男である。
「あら、芝さんじゃあないですか。思っていたよりも早く終わったんですね。てっきり来ないものかと」
「何、気合で終わらせてきたさ。ここへ来ないと一日が始まらん」
「ふふ、嬉しいことを言ってくれますね」
鏡子の揶揄いなどものともせず、上手く受け流せるのはこの男くらいだろう。
揶揄われても簡単に笑いへと変える。今では彼によるお巫山戯がなければ、一日が始まらないと言っても過言ではなかった。
「す、すみませーん……。遅れましたぁ」
継いで顔を覗かせたのは、芝の明るさと相対した根暗な男である。背丈は芝と並ぶと頭一つ小さく、猫背であるがゆえに余計に小さく見える。芝の体格が良いだけのようにも感じるが、小瀧と並んでもその差は歴然である。
男の根暗さは言葉からも感じられ、芝の背後から負の雰囲気すら漂っている。
「江波方、また寝坊か。昨晩も夜更かししていたのだろう」
「本って読み出すと止まらなくてぇ」
芝に半ば引き摺られつようにして彼らも席に着き、いつの間にか大人数の団欒の場ができていた。
客足が減り、彼ら以外の客がいない間はこうして何気ない話をするのだ。今では蕗だけでなく、皆の楽しみになっている。
「しかし江波方、お前はもう少し風柳を見習え。年下である風柳の方がよっぽどしっかりしているぞ」
「いやぁ、そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、いつも無理矢理叩き起こしてますよね」
「お前はうちでも若造なんだから早起きをして損はないだろう。寝付きも寝起きも良い今だからこそ時間を大切にするんだ」
「だからって夜中の三時に起こす奴がいますか! 夜中の! 三時ですよ! 時間を大切にするしない以前に、もっと寝かせてください!」
珍しく声を荒げる仁武の悲痛な叫びが店内に響き渡るが、芝はそんな彼の願いを聞く気はないらしい。笑い声を上げながら無理矢理話を終わらせる。
芝の言う通り、同い年の蕗を除けば仁武はこの中でも一番の若輩者に当たる。子供扱いされるのも無理はない。
腑に落ちていない様子の仁武はそれ以上反論することはなくても、ぶつぶつと怒りを小言にしていた。



