嘘つきと疫病神

 幼い頃の仁武と今の仁武の姿が重なって見えた気がして、これ以上何も言えなくなった。
 しばらく仁武と見つめ合うだけの時間が続く。何を言うべきか分からなくて、でも何か言わないといけないと思っている自分もいる。
 口を開けばまた思ってもみないことを言ってしまいそうな気がしたが、言うしかなかった。仁武のためには言うしかなかった。

「私は仁武の覚悟を尊重する。貴方が決めたことだから、私は止めないよ」

 ひらりと、自分の手の中から仁武の手が離れていった。ただ手を離しただけなのに、これからどこか遠くに行ってしまうのではないかと思って唐突に不安になる。
 仁武は少し俯くと、何かを決めたのか数回小さく頷いた。
 いつだって手と手は離れるもの。繋がっていたいと願っても、繋がっていられないのが現実というものだった。

「ありがとう」

 そう呟いた仁武の声は震えていて、顔を上げた彼の目には微かに涙が滲んでいた。
 楽しげな雰囲気が、幸せな時間が遠退いていく。紬に笑ってほしいと思っても、彼女は顔を伏せて蕗達から目を逸らしていた。
 紬じゃなくても芝や鏡子が笑ってくれれば、つられて皆も笑うのに。どうして誰の笑い声も聞こえないのだろう。
 どうしてこうなってしまうのだろう。皆の表情が曇っていって見ていられない。こんな表情など見たくはなかった。
 友里恵が死に、洸希が自ら命を絶った。直接的な関わりがあったわけではなかったとしても、知っている人間が死んだのだ。
 そんな状況で笑っていられるはずなど無い。自分は何処で勘違いしていたのだろう。

「ご飯、すっかり冷めちゃったわね」
「良いじゃない。それだけたくさん話せたってことよ」

 紬と鏡子が椅子を寄せて座った。その横に江波方と小瀧、和加代が座り、最後に仁武が座ったことでようやく誕生日会が始まった。
 冷めきったご飯であっても、皆の顔が明るく晴れていく。あっという間に皆の話に花が咲き、笑顔が戻っていた。
 小さなケーキとも言えない甘味に刺されたロウソクに鏡子が火を付け、蕗はその火をふっと吹き消した。
 しかしもう思い知っているのだ。こういうときこそ、地獄がすぐ傍で待ち構えていることを。