「……ん、んんぅ?」

 何か、膜のようなものを通り過ぎる感覚に意識が浮かび上がる。

 この感覚は前に一度経験した。

 確か、北妖の里に来た時……駅から結界の中に入るときに感じたのと同じ……。


「なんだ、もう起きたのか?」

 すぐ近くで煉先輩の声が聞こえて覚醒する。


「煉先輩?」

 目を開けると、煉先輩の顔を少し下から見るような状態だった。

 この角度には覚えがある。


 わたし、煉先輩にお姫様抱っこされてる!?


「あ、あの、下ろしてください」

「別に重くねぇぞ? お前ちっこいから軽いし」

「そういう問題ではなくて!」

「ああ、分かった分かった。下ろすから暴れるなよ」

 ジタバタするわたしを煉先輩は意外とアッサリ下ろしてくれた。


 靴もちゃんと履き替えさせてくれたらしい。

 外靴でアスファルトの上に立つ。

 そして周囲を見回して確信した。


 やっぱり、さっきは結界を通り抜けた感覚だったんだ。


 田園風景が広がる里の中とは違う。

 オシャレな雑貨店やケーキ屋さん、アパレルショップに有名なレストランのチェーン店など。

 人間の街にいた頃と同じような景色が広がる駅前だ。